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無知・2
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だが考えてみれば、エリー嬢が美味しそうに頬張っていたソレは「生野菜です」とは言われずに、給仕したパーラーメイドはただ「今朝の前菜は『卵とグリーンサラダのチーズドレッシング和え』でございます」としか言っていなかった。
中身は何かと尋ねれば使われた野菜が菜園で採れた葉物を使ったものだと教えてくれたかもしれないが、そんなことを聞けるのは主人か招かれた主客ぐらいで、公爵家の娘の友人客で、しかも初めて招かれたというぐらいではそこまでグイグイと遠慮なく聞けるものではない。
そしてまさかエリー嬢が生野菜を食べたことがないなどと考えたこともなく、誰もそこに何がどういう状態で使われたかなど、よほど話題性のある料理でもなければ盛り上がることもない。
そしてディーファン公爵家では季節折々に実る新鮮な野菜を使った料理は珍しいものではなく、また生野菜としてだけではなく加熱しても使われるため誰もエリー嬢に対して説明する必要も思いつかなかった。
しかし──
「えっと……でも、食べてた…よね?」
「え?」
「ほら、今朝も朝食の一番最初に出てきたでしょう?」
「あ…あの、何かの草ですか?その……失礼ながら、王都の公爵家ではその……草を食べる、ということは珍しかったのですけども……お姉様も皆様も美味しそうに食べてらっしゃって……」
『草』という言葉で愕然とした顔をしたのは、アルベールとルエナである。
確かに草っぽいが、あれは野草ではなくれっきとした野菜であるのに関わらず、エリー嬢には正体がわからなかったというのが衝撃的だった。
「……辺境という地にあるせいかもしれないし、辺境侯爵領がかつてこの国に分け与えられた他国のものだったということもあるのかもしれない。俺たちの領ではあまり生で野菜を食する習慣もないのだが、だいたいエリーのような貴族家の者は調理する前の食材など見たこともないだろう」
「うっわ~……」
まさか林檎や野生に生っている物も見たことがないのだろうか──あり得ないイストフの告白に、シーナが顔を歪める。
「特にエリーのような幼い貴族令嬢は……箱入りどころかまるで金庫の中の人形のように扱われる。世間を知らなければ知らないほど、価値が上がる。だからこそ兄は、何も知らないままにエリーを……」
そういうとイストフはルエナと同じように細く白いエリー嬢を見て、ふいっと視線をそらした。
中身は何かと尋ねれば使われた野菜が菜園で採れた葉物を使ったものだと教えてくれたかもしれないが、そんなことを聞けるのは主人か招かれた主客ぐらいで、公爵家の娘の友人客で、しかも初めて招かれたというぐらいではそこまでグイグイと遠慮なく聞けるものではない。
そしてまさかエリー嬢が生野菜を食べたことがないなどと考えたこともなく、誰もそこに何がどういう状態で使われたかなど、よほど話題性のある料理でもなければ盛り上がることもない。
そしてディーファン公爵家では季節折々に実る新鮮な野菜を使った料理は珍しいものではなく、また生野菜としてだけではなく加熱しても使われるため誰もエリー嬢に対して説明する必要も思いつかなかった。
しかし──
「えっと……でも、食べてた…よね?」
「え?」
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『草』という言葉で愕然とした顔をしたのは、アルベールとルエナである。
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