婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
189 / 267

無知・1

しおりを挟む
実際は直接教えてもらったわけではなく、『男女の機微もわからない幼子ならば、どうせ女体の変化にも気付かないだろう』と高を括って義姉に相談していたのを、リオンが素知らぬふりで聞き耳を立てていたというわけである。
だがその悩みに対してリオンの母──当時はまだ王太子妃だった──は同情するとともに、こう提案した。
「それならば、ルーウェン伯爵領の素敵な保養地に行くといいわ!美しい湖に清らかな水が流れる川、どこまでも広がる草原と青空の下で採れたてのお野菜を食べる喜びと言ったら……」
「えぇっ?そんな……草原なんて、汚らしい虫がたくさんいるではありませんか。おまけに陽を遮る四阿あずまやもなく照らされてしまったら、肌が焼けて火ぶくれを起こしてしまいますわよ?お義姉様……お願いですから、お義姉様の玉のようなお肌に醜い火傷痕が残るような蛮行はお止めくださいまし」
「ば、蛮行なんて……」
「それに、お毒味を通さずに、採れたばかりの生の野菜など……どうぞ身体をおいといくださいませ。万が一、お義姉様が不遜な輩に毒でも盛られて儚くなってしまわれたら、このリオンだけでなく、兄もわたくしも悲しみの淵から立ち上がれなくなってしまいます……」
その時、叔母に名指しで『悲しみ予備軍』にされたリオンはその場で遊んでいたオモチャと乳母を放り出し、それこそ叔母の厭う『健康的に日焼けし、かすり傷を負った腕』をこれ見よがしに差し出しながら、にっこりと笑って庭の散策に誘った。
ちなみにその提案は大いに拒絶され、子供らしく拗ねて見せて外に連れ出すことに成功したものの、叔母は王太子宮と王城を繋ぐ王族だけが使える中庭の渡り廊下を歩くことだけをようやく受け入れたのである。
陽の光を遮り風だけを通す石造りの屋根と床を進むだけなのに日傘をいくつも用意させて徹底的に日焼けしないようにと準備し、王城へ渡った後は用無しとばかりに、エスコートのために差し出していた幼児の腕から冷たい指は離れていった。
「……あれは今思えば、血行不良から来る末端冷え性だな」
「ついでに運動も栄養も不足していたんでしょう?よく王宮侍医が無理やり栄養取らせなかったわね?」
「そこまで科学的医学的に発展してないからな、異世界ここは……せいぜいが『もう少しお身体に良い物をお食べください』ぐらいだよ、言えるのは」
「『良い物』って……」
「まあ端的に言えば、父上や母上が俺を授かった時に食べていた物…を指すんだと思うんだが。叔母上にとっては『王宮の厨房で作られる料理が最上。次点が夫の実家である公爵家』みたいな価値観で、採れたてを川や井戸の水で冷やしただけでかぶりつく生野菜なんて、毒以外の何物でもないって母上に向かって宣言していたね!」
「うわぁ~~~……」
その言葉にシーナもルエナも眉を顰めたが、理由はまったく違う。
シーナはもちろん前世の記憶から生野菜に含まれるビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富に含まれていることを理解した上で生野菜を毒扱いされたことに対する怒りであり、ルエナの場合はまさしくリオンの叔母と価値観を共にすることからの生野菜という物への不信感に同調するものであった。
エリー嬢に関して言えばまず辺境の地で手に入る最上の物はすべてエビフェールクス辺境侯爵家が召し上げてしまうため、手に入る物といえば保存を目的とした加工品ばかりであり、まず『新鮮な物』といえば猟師を生業とする者が献上品以外にこっそりと手に入れた獣肉ジビエであったが、そんな物ですら口にできるのは貴族の中でも当主や後継ぎの息子ぐらいであったため、まず『生野菜』という言葉自体に馴染みがなかったのである。
「お姉様……お姉様たちはその『生野菜』という物をお食べになったことがありまして?」
そう問われてシーナやルエナだけでなく、アルベールも「え?」と問いかけ直す。

何せディーファン家の今日の朝食の席でも、当然のようにディーファン家自慢の菜園で朝に採れた生野菜は出てきたのだから。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...