婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
180 / 267

集団

しおりを挟む
ズラリと並んだのは、爵位のない普通の市民が行き来する往来にはどう見ても不似合いな、あり得んばかりに着飾った令嬢たち。

うん。ナシだな。

声に出さず、リオンとシーナの思考が同じ言葉を脳内に紡ぐ。
前世で同じ時の記憶がある二人にとって、もうコスプレとしか思えない『映画の世界で見るようなテンプレ令嬢スタイル』の女の子は、どちらかというと趣味ではない。
どうせならホワイトロリータかゴシックロリータがいいのだが、それはこの世界では道化と間違われかねないだろう。
虹の如く様々な色合いのドレスに、それぞれがガッツリと纏った宝石類──強盗に襲われないのが不思議なぐらいだが、彼女らの背後にこれまたガッツリと武装した男たちが控えているところから、その対策だけはできているらしい。
「……うわぁ。場違い……」
「『場違い』って何ですの?こちらのお姉様方は、ルエナねえさまとシーナねえさまのお友達ですの?」
つい口から零れてしまったシーナの呟きをエリー嬢は繊細な耳で聞き取り、さらに目の前の令嬢を眺めてからニッコリとこちらを振り返る。
「えっ……」
「いやいやいや!どう見ても……」
戸惑うルエナと否定しようとしたシーナ。
だがふたりともエリー嬢の作った笑いに気が付き、片方は戸惑い、片方は悪ノリしようと言葉を変える。
「そう!そうなの!あったま悪そーなお嬢様方でしょう~?でもルエナのお友達ではないのよ?だって……ねぇ?」
「えっ?」
話を振られて驚いたのはルエナだけでなく、完全なフォーメンションを組んだと思っているらしい令嬢たちもだった。
「えっ……」
「嘘っ……」
「な、何で……」
ざわざわと狼狽えを含んだざわめきが上がり、いつも隙の無いきつく締めあげたドレスときついメイクを施した公爵令嬢ではなく、やつれた頬や目の下をうまく隠しつつ薄化粧のようにしか見えない素朴なメイクとシーナが厳選した可愛らしい庶民の年頃の少女が着るようなふくらはぎ丈のデイリードレス姿のルエナをようやく認め、それがシーナの『単なるお友達』ではないことに気が付いて青褪める。
「ヒッ……」
「そ、そんな」
「あ…あのっ…ル、ルエナ様っ……」
「……いったいどうして、シーナ嬢が咎められるんだ?」
さっきの威勢はどこに行ったのかと笑いだしたくなるシーナの目の前に、ズッと黒い影が落ちた。
ふわりと品の良い男性用香水の匂いに誰が自分の視界を塞いだのかと考える必要はなく、その持ち主に声を掛けようとする前に、別の声が重なる。
「確かにねぇ……今回のこの散策はシーナ嬢が言い出しっぺだろうけど、ルエナ嬢もエリー嬢も楽しそうに計画していたみたいだしね?ねえイストフ?」
「ええ。彼女の王都滞在時の身元引受人として、私も同行することが条件でしたが……まだ幼い令嬢で、失礼があってはなりませんから」
「まぁ!わたくしだってすぐに成人しますわ!それに失礼なんて……女性に向かって『幼い』なんて、イストフお兄様の方が失礼ですわ!」
「ごめんごめん、エリー。そうだったね」
学園ではめったに笑顔を浮かべないイストフが苦笑いしながら、小さな想い人を守るようにその横に進み出ると、きゃあっと場所を考えない色めいた声が上がった。
シーナのことに対しては快く思わなくても、イストフが『妹のように』そばに寄りそう少女に対しては不審に思いはしても、悪印象は持たなかったらしい。

それはそうだろう──リオン王太子はともかく、学園内側近として優し気なベレフォンとルイフォンのダンビューラ兄弟、豪快なディディエ・ファーケン・ムスタフと同じようにイストフの女生徒人気は高かった。
領地に帰らねばならない辺境侯爵家嫡男ではなく、おそらく王都に残って王宮に勤めるはずのイストフはまだ婚約者も決まっていないということもあり、何故か彼らの中心に収まったシーナ・ティア・オイン子爵令嬢という素性卑しい元庶民の女さえ消えてくれればかなりの優良物件なのだから。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...