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変化
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いつも一緒にいれば異変に気付けたのかもしれないが、そもそも小さい頃から次期当主であるアルベールと、いずれ他家に嫁ぐルエナでは当然のように教育も連れて行かれるところも違い、ルエナ自身が王太子婚約者として内定してからは更に関わり合いが少なくなってしまった。
それだけでなく、アルベール自身も年下の王太子がディーファン公爵と対等のように話すのを聞き、また読み書きもずっと優れていると知ってからは、自分も文武両道になろうと励んだため、更にさらに妹との接点がないまま貴族学園に入ってしまったのである。
年の差がひとつしかないため翌年にはルエナも入って来るはずだったが、学園ではなく王都の公爵邸で家庭教師が住み込みでいたためにルエナは中等部からの入学が決まっており、長期休暇でもない限りは家に帰らなかったのも悪かったのかもしれない。
市井で育った他にも前世での記憶のせいか、シーナ嬢はふたりの令嬢よりも活き活きとし、まるで姉のようにルエナとエリー嬢を気遣いながらあちらこちらと店を案内している。
少女三人が手にしているのは伯爵令嬢でも安物と見えるはずのガラスビーズのついた髪飾りだが、後ろから見守っている限り、ルエナがその品物に嫌悪感を示している様子もなく、本当に変わったとしか思えない。
「……あの傲慢なディーファン公爵令嬢が、あんな安物を嬉しそうに……」
思わずといったふうにイストフが漏らした声にイラつきながらも、同じことを考えていたアルベールは無表情で軽く頷く。
確かに以前のルエナであればたとえ婚約者のリオン王太子殿下から贈られた物であっても、最上のアクセサリーだけを身近に置き、その他の物は侍女に申しつけて衣裳部屋にしまい込んでいたはずだ。
だからかもしれないがルエナの手の届くところにあった宝石貴金属類は揃いの物がなく、夜会などでは常に新しいアクセサリーを揃いで作ったり、母親が元々持っていた物をルエナに合うように仕立て直した物を与えていたが、それらもいつの間にかしまい込まれて見当たらなくなる。
まさかそれらが『お嬢様のご入用』という名目で質の悪い金貸しに流されていると知ったのは、まさしくその品を手に入れた悪徳金貸しが「公爵家が財政難と聞きまして」と真偽を確かめに、母が少女の頃に祖父に作ってもらったルビーのネックレスを携えてやってきたからだった。
むろんそのネックレスはその場で買い戻され、『お使い』が面通しされてその金貸しのもとに持ち込んだ犯人は特定されたが、その者は雇われたばかりの給仕女使用人で、『ルエナお嬢様の専属侍女』としか名乗らなかったメガネをかけた少し年齢が上の上級使用人から預かったとしか言えなかった。
その当時に眼鏡をかけた上級使用人は男しかおらず、ましてやルエナの専属侍女であったサラは一歳しか違わないのだから、その上等な品を金に換えろと命令したはずはない。
しかし実際に高価なアクセサリーは金貨数十枚と交換され、そのうちの一枚を口止め料を含んだ駄賃としてもらった後ろめたさからそのメイドは主人一家に告白することもできず、捕まってようやく安心したと涙を流した。
金貸しに持ち込んだアクセサリーのすべてが買い戻せたわけではないが、さすがに王太子から贈られた物は印が入っていたために簡単に手放すことはできなかったということで、それらはルエナの手元にではなく、いまだに母が管理している。
しかしそれらが手元に届いた時にはちゃんと認識しているか怪しいぐらいに濁った表情だったルエナは、ただの色ガラスを光に透かしてキラキラと目を輝かせながら微笑んでいるのだ。
それは喜ぶべき変化だった。
それだけでなく、アルベール自身も年下の王太子がディーファン公爵と対等のように話すのを聞き、また読み書きもずっと優れていると知ってからは、自分も文武両道になろうと励んだため、更にさらに妹との接点がないまま貴族学園に入ってしまったのである。
年の差がひとつしかないため翌年にはルエナも入って来るはずだったが、学園ではなく王都の公爵邸で家庭教師が住み込みでいたためにルエナは中等部からの入学が決まっており、長期休暇でもない限りは家に帰らなかったのも悪かったのかもしれない。
市井で育った他にも前世での記憶のせいか、シーナ嬢はふたりの令嬢よりも活き活きとし、まるで姉のようにルエナとエリー嬢を気遣いながらあちらこちらと店を案内している。
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「……あの傲慢なディーファン公爵令嬢が、あんな安物を嬉しそうに……」
思わずといったふうにイストフが漏らした声にイラつきながらも、同じことを考えていたアルベールは無表情で軽く頷く。
確かに以前のルエナであればたとえ婚約者のリオン王太子殿下から贈られた物であっても、最上のアクセサリーだけを身近に置き、その他の物は侍女に申しつけて衣裳部屋にしまい込んでいたはずだ。
だからかもしれないがルエナの手の届くところにあった宝石貴金属類は揃いの物がなく、夜会などでは常に新しいアクセサリーを揃いで作ったり、母親が元々持っていた物をルエナに合うように仕立て直した物を与えていたが、それらもいつの間にかしまい込まれて見当たらなくなる。
まさかそれらが『お嬢様のご入用』という名目で質の悪い金貸しに流されていると知ったのは、まさしくその品を手に入れた悪徳金貸しが「公爵家が財政難と聞きまして」と真偽を確かめに、母が少女の頃に祖父に作ってもらったルビーのネックレスを携えてやってきたからだった。
むろんそのネックレスはその場で買い戻され、『お使い』が面通しされてその金貸しのもとに持ち込んだ犯人は特定されたが、その者は雇われたばかりの給仕女使用人で、『ルエナお嬢様の専属侍女』としか名乗らなかったメガネをかけた少し年齢が上の上級使用人から預かったとしか言えなかった。
その当時に眼鏡をかけた上級使用人は男しかおらず、ましてやルエナの専属侍女であったサラは一歳しか違わないのだから、その上等な品を金に換えろと命令したはずはない。
しかし実際に高価なアクセサリーは金貨数十枚と交換され、そのうちの一枚を口止め料を含んだ駄賃としてもらった後ろめたさからそのメイドは主人一家に告白することもできず、捕まってようやく安心したと涙を流した。
金貸しに持ち込んだアクセサリーのすべてが買い戻せたわけではないが、さすがに王太子から贈られた物は印が入っていたために簡単に手放すことはできなかったということで、それらはルエナの手元にではなく、いまだに母が管理している。
しかしそれらが手元に届いた時にはちゃんと認識しているか怪しいぐらいに濁った表情だったルエナは、ただの色ガラスを光に透かしてキラキラと目を輝かせながら微笑んでいるのだ。
それは喜ぶべき変化だった。
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