170 / 267
躊躇
しおりを挟む
「そっかぁ……配慮が足りなかったわね、うん」
非難の色を込めてルエナ嬢はシーナを睨んだが、あっさりと自分の非を認めて頷く子爵令嬢に虚を突かれて表情を何とも言えない脱力感に満ちたものに変化させた。
代わりに伯爵令嬢は目をキラキラとさせて、自分の生活態度が悪かったと反省するシーナに向かってうっとりと笑いかける。
「素晴らしいですわ!王都にいる貴族令嬢は皆、気位が高いと聞いていましたの!でもお姉様のように自分のやったことを顧みる方もいらっしゃいますのね!」
「いやぁ~………」
別に貴族として育てられたわけでもなく、前世の記憶からそのままの習慣で『使用人の負担も考えずに夜更かしする子供が悪い』的な反省をしただけであるが、まさか伯爵令嬢にそこまで褒められるとは思わず、シーナはえへへと頭を掻く。
逆にルエナ嬢は気不味そうに顔を反らし、自分からシーナ嬢の夜更かしについて責めたものの、自分だったら確かにエルネスティーヌ嬢が知る『王都の貴族令嬢』として「自分は悪くない。夜更かしする時に使用人が起きて呼ばれるのを待つのが当然だ」と言い放つだろうと考えた。
だがそれが貴族の──高位貴族としての矜持、そして上立つ者として侮られないための高慢さなのである。
「だってさぁ!アタシはそんなに大層なもんでもないのよ?せいぜい絵を描くのが好きってだけで……まぁ、それでも時間を忘れちゃいかんわよね。うん。ましてやそのせいで寝られない人がいるっていうのも、申し訳ない……」
「えっ……も、『申し訳ない』なんてそんな言葉、子爵とはいえ貴族の娘が使うものではないわ……」
「ん?そう?ですか?……んじゃぁ……『すまない』?『ごめんなさい』?『ごきげんよう』…は違うか……じゃあ、ルエナ様だったらなんて言うんですか?」
「えっ?わ、わたくし……?」
シーナにそう問い返され、年下の伯爵令嬢にも期待を込められた視線を向けられ、ルエナ嬢はしろどもどろになる。
だいたい生まれてこの方、ルエナ嬢が使用人たちに挨拶の言葉を掛けることすら稀で、家族以外では乳母や家庭教師、そして公爵家を去らざるを得なかった専属侍女のサラ以外の者は存在すらも気にせずに振舞ってきた。
確かにサラ以外にも侍女が側にはいたし、彼女がいなくなってからは乳母がその役目を引き受けてくれていたが、その他の者たちと気軽に話をした記憶はない。
当然のことながら『謝る』という行為すら、記憶のどこを探しても──薬物で曖昧だったり抜け落ちているとはいえ──両親や兄にもほとんど口に出したことはなかった。
「そ…それは………」
『そのための言葉を言ったことはない』とだけ言えばいいのに、それすらも公爵令嬢としてのプライドが邪魔をして、ルエナ嬢は言葉を濁した。
非難の色を込めてルエナ嬢はシーナを睨んだが、あっさりと自分の非を認めて頷く子爵令嬢に虚を突かれて表情を何とも言えない脱力感に満ちたものに変化させた。
代わりに伯爵令嬢は目をキラキラとさせて、自分の生活態度が悪かったと反省するシーナに向かってうっとりと笑いかける。
「素晴らしいですわ!王都にいる貴族令嬢は皆、気位が高いと聞いていましたの!でもお姉様のように自分のやったことを顧みる方もいらっしゃいますのね!」
「いやぁ~………」
別に貴族として育てられたわけでもなく、前世の記憶からそのままの習慣で『使用人の負担も考えずに夜更かしする子供が悪い』的な反省をしただけであるが、まさか伯爵令嬢にそこまで褒められるとは思わず、シーナはえへへと頭を掻く。
逆にルエナ嬢は気不味そうに顔を反らし、自分からシーナ嬢の夜更かしについて責めたものの、自分だったら確かにエルネスティーヌ嬢が知る『王都の貴族令嬢』として「自分は悪くない。夜更かしする時に使用人が起きて呼ばれるのを待つのが当然だ」と言い放つだろうと考えた。
だがそれが貴族の──高位貴族としての矜持、そして上立つ者として侮られないための高慢さなのである。
「だってさぁ!アタシはそんなに大層なもんでもないのよ?せいぜい絵を描くのが好きってだけで……まぁ、それでも時間を忘れちゃいかんわよね。うん。ましてやそのせいで寝られない人がいるっていうのも、申し訳ない……」
「えっ……も、『申し訳ない』なんてそんな言葉、子爵とはいえ貴族の娘が使うものではないわ……」
「ん?そう?ですか?……んじゃぁ……『すまない』?『ごめんなさい』?『ごきげんよう』…は違うか……じゃあ、ルエナ様だったらなんて言うんですか?」
「えっ?わ、わたくし……?」
シーナにそう問い返され、年下の伯爵令嬢にも期待を込められた視線を向けられ、ルエナ嬢はしろどもどろになる。
だいたい生まれてこの方、ルエナ嬢が使用人たちに挨拶の言葉を掛けることすら稀で、家族以外では乳母や家庭教師、そして公爵家を去らざるを得なかった専属侍女のサラ以外の者は存在すらも気にせずに振舞ってきた。
確かにサラ以外にも侍女が側にはいたし、彼女がいなくなってからは乳母がその役目を引き受けてくれていたが、その他の者たちと気軽に話をした記憶はない。
当然のことながら『謝る』という行為すら、記憶のどこを探しても──薬物で曖昧だったり抜け落ちているとはいえ──両親や兄にもほとんど口に出したことはなかった。
「そ…それは………」
『そのための言葉を言ったことはない』とだけ言えばいいのに、それすらも公爵令嬢としてのプライドが邪魔をして、ルエナ嬢は言葉を濁した。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる