婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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躊躇

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「そっかぁ……配慮が足りなかったわね、うん」
非難の色を込めてルエナ嬢はシーナを睨んだが、あっさりと自分の非を認めて頷く子爵令嬢に虚を突かれて表情を何とも言えない脱力感に満ちたものに変化させた。
代わりに伯爵令嬢は目をキラキラとさせて、自分の生活態度が悪かったと反省するシーナに向かってうっとりと笑いかける。
「素晴らしいですわ!王都にいる貴族令嬢は皆、気位が高いと聞いていましたの!でもお姉様のように自分のやったことを顧みる方もいらっしゃいますのね!」
「いやぁ~………」
別に貴族として育てられたわけでもなく、前世の記憶からそのままの習慣で『使用人の負担も考えずに夜更かしする子供じぶんが悪い』的な反省をしただけであるが、まさか伯爵令嬢にそこまで褒められるとは思わず、シーナはえへへと頭を掻く。
逆にルエナ嬢は気不味そうに顔を反らし、自分からシーナ嬢の夜更かしについて責めたものの、自分だったら確かにエルネスティーヌ嬢が知る『王都の貴族令嬢』として「自分は悪くない。夜更かしする時に使用人が起きて呼ばれるのを待つのが当然だ」と言い放つだろうと考えた。

だがそれが貴族の──高位貴族としての矜持、そして上立つ者として侮られないための高慢さなのである。

「だってさぁ!アタシはそんなに大層なもんでもないのよ?せいぜい絵を描くのが好きってだけで……まぁ、それでも時間を忘れちゃいかんわよね。うん。ましてやそのせいで寝られない人がいるっていうのも、申し訳ない……」
「えっ……も、『申し訳ない』なんてそんな言葉、子爵とはいえ貴族の娘が使うものではないわ……」
「ん?そう?ですか?……んじゃぁ……『すまない』?『ごめんなさい』?『ごきげんよう』…は違うか……じゃあ、ルエナ様だったらなんて言うんですか?」
「えっ?わ、わたくし……?」
シーナにそう問い返され、年下の伯爵令嬢にも期待を込められた視線を向けられ、ルエナ嬢はしろどもどろになる。
だいたい生まれてこの方、ルエナ嬢が使用人たちに挨拶の言葉を掛けることすら稀で、家族以外では乳母や家庭教師、そして公爵家を去らざるを得なかった専属侍女のサラ以外の者は存在すらも気にせずに振舞ってきた。
確かにサラ以外にも侍女が側にはいたし、彼女がいなくなってからは乳母がその役目を引き受けてくれていたが、その他の者たちと気軽に話をした記憶はない。
当然のことながら『謝る』という行為すら、記憶のどこを探しても──薬物で曖昧だったり抜け落ちているとはいえ──両親や兄にもほとんど口に出したことはなかった。
「そ…それは………」
『そのための言葉を言ったことはない』とだけ言えばいいのに、それすらも公爵令嬢としてのプライドが邪魔をして、ルエナ嬢は言葉を濁した。


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