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教育
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シーナが作成したのは絵本ではなく、いわゆる紙芝居的な物だった。
とはいえ話の内容は自分の頭の中に入っているので、裏面に書いたストーリーをそのまま読むのではなく絵画のような一枚一枚の紙を順番に捲り、ルエナ嬢とエルネスティーヌ嬢に挟まれてデレデレしながら物語を進める。
最初はやや離れていたものの、幼い伯爵令嬢に「一緒に見たいです」と言われても避けるのは大人げないと思ったのもあるだろうし、やはりシーナの描く水彩画の見事さに惹きつけられていたというのもあるだろう──やや警戒しながらも、ルエナ嬢はエルネスティーヌ嬢とは反対側に座ってくれた。
(もう!ヤバい!死ぬる!!いやココで死んだらせっかくの童話読み聞かせができぬ!)
思考回路が迷子になりながらも、よどみなく声は流れ出る。
「……こうして勝負に勝ったのは太陽。見事旅人の服を脱がせましたとさ…おしまい!」
「すごいですわ!風や太陽に人格があるなど…考えもしませんでしたわ!」
「えぇぇ……そこぉ……」
ものの数枚ではあるが、登場人物が少なく簡単に描けそうなものということで思いついたのが『北風と太陽』だったのだが、エルネスティーヌ嬢が食いついたのは『旅人のマントを取るという勝負』を行った太陽と風という自然が疑似人格を持つという部分であり、教訓として『人に厳しくするよりも優しくした方がいいですよ』的なものではなかった。
「これ……どうして、風と太陽が勝負を為さるの?風と雪ではいけないのかしら?いえ、太陽というのならば月がお相手でも構わないのではなくて?」
「えぇぇ…ルエナ様まで……」
これは物語だ、童話だ、そして教訓だ…とシーナにはわかっていても、赤ん坊の頃から眠る前に童話を読み聞かせてもらったり童謡を聞いたりしていたわけではないというお嬢様ふたりには、シーナがこの話を選んだ理由がわからない。
理不尽なのだ。
だいたい太陽も風も人格というか、話ができるはずがない。
ましてや人の衣服を剥ぎ取るという意図がわからない。
何故太陽と風なのか、違うもので競ってもいいのではないか。
そもそもなぜ人間がひとりだけなのか。
魔法も妖精も冒険者という職業もない『普通』のヨーロッパ風異世界であるが、幼児期の過ごし方はずいぶん違うらしい。
貴族の令嬢たちはシーナが『詩音』だった時に歴史的興味として聞きかじったとの同じように乳母が親から子供を預かって赤ん坊の頃から世話をする。
だが彼女たちは礼儀作法や生活習慣を教えても、寝かしつけの時に童話や童謡で幼子を慰めたり、教訓じみたたとえ話で道徳を教えたりというところまではしないらしい。
とはいえ話の内容は自分の頭の中に入っているので、裏面に書いたストーリーをそのまま読むのではなく絵画のような一枚一枚の紙を順番に捲り、ルエナ嬢とエルネスティーヌ嬢に挟まれてデレデレしながら物語を進める。
最初はやや離れていたものの、幼い伯爵令嬢に「一緒に見たいです」と言われても避けるのは大人げないと思ったのもあるだろうし、やはりシーナの描く水彩画の見事さに惹きつけられていたというのもあるだろう──やや警戒しながらも、ルエナ嬢はエルネスティーヌ嬢とは反対側に座ってくれた。
(もう!ヤバい!死ぬる!!いやココで死んだらせっかくの童話読み聞かせができぬ!)
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「すごいですわ!風や太陽に人格があるなど…考えもしませんでしたわ!」
「えぇぇ……そこぉ……」
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「これ……どうして、風と太陽が勝負を為さるの?風と雪ではいけないのかしら?いえ、太陽というのならば月がお相手でも構わないのではなくて?」
「えぇぇ…ルエナ様まで……」
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理不尽なのだ。
だいたい太陽も風も人格というか、話ができるはずがない。
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