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「グハッ……なっ…何っ、かっ……ですっかっ?!ゲホゲホゲホゲホッ!!」
「え?そんなに変か?いや、確かにお茶としては不思議な味だけど……?味?いや、蜂蜜の味?えぇ……?」
リュシアンは勢いよく呷ったせいで噎せたようだが、兄であるリオネルは用心深く啜ったおかげで、じっくりハーブティーを分析できたようである。
隣ではイストフも、そしてアルベールも首を傾げながら恐る恐る二口目を喉に流し込んだ。
「味は……紅茶と違って草っぽいかな。でもほとんど味はなくて、清涼感の方が強い。だから蜂蜜で香りと味をつけてるの。砂糖だと味はついてもミントの香りは和らがないから」
「ミント……」
「虫除けで使われるけど、こうやって服用することで胃のむかつきを抑えたり、馬車酔いも改善されたりするわ。口臭予防にも効果があるし解熱作用もあるけど、やっぱりメントールのおかげで気持ちを切り替えたり落ち着けてくれるの」
「……うわ、ほんとだ……」
ケプッと小さくげっぷをしたリュシアンが胃の奥から上がってきたミントの清涼感を感じたのだろう、パァッと表情を明るくする。
「兄様!すごいです。喉の奥がスッキリして……なんか良い感じです!」
「うん、本当だね……植物……いや、食用にできる図鑑ではないな……薬図鑑……?」
弟がキャッキャッとはしゃぐ横で、兄は新たな興味をかき立てられたようでジッとカップの中を覗いている。
イストフはゆっくりと自分のカップに口をつけながら、ルエナが少しずつミントティーを飲むのを見つめるリオン王太子を無言で見つめる。
そしてそれをやはり無言で見守るアルベールと、何も言わずに新たにティーポットからお茶を注ぐシーナ。
お湯で湧き立つミントの香りに噎せる者は、室内にはもう誰もいなかった。
王太子の学園側近のうち、イストフ以外の者は皆──ひとりうまく逃げおおせたベレフォン・ジュスト・ダンビューラ以外は学園内の懲罰房に入れられている。
それも生徒用ではなく使用人たちが入れられるものであるため、教室や教員室のある本館ではなく、物々しく衛兵たちが他者の接触を一切拒否するように監視していた。
「クソッ!何だってんだ?王子はいったい何やってやがる!!だいたいてめえの大事な側近が捕らえられたってぇのに……やっぱり、あいつぁ俺の上に立つ器じゃねぇ!!」
ガンガンと激しく石壁や鉄の扉を殴ったり蹴ったりするが、ディディエ・ファーケン・ムスタフに注意する者はいない。
実際は扉の外に立って見張ってはいるのだが、黙って次々と吐かれる暴言を書き留めている。
まさかそんな記録を残されているとも思わず、その言葉はだんだんと凶暴なものになっていくが、語彙があるわけではないのか同じようにリオン王太子を罵り、その側にあるシーナ嬢をどうにかして奪い去ってやると叫び続けた。
「あ~も~!兄様、どこ行ったのさぁ!ボクを置いてくなんて酷くない?!可愛い弟見捨てていくなんてさぁ!きっと今頃シーナねえさまをディーファンのいやらしい手から救い出したとかって殿下のところに行ってるのかなぁ……それならもうそろそろ、ここに来てもいいよねぇ……もしかして、もしかして?シーナねえさまに手ぇ出しちゃったぁ?ヒドいなぁ~……シーナねえさまはボクと一緒に愉しもうっていってたのにさぁ……」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……
ルイフェン・クウェンティ・ダンビューラが立てるそれは床石を引っ掻く音で、いつまでも止めない代わりに、彼の声はだんだんと小さくなっていく。
視線を感じさせない位置から覗く衛兵のことなど気にもしていないのか、小さな背をさらに丸めて薄気味悪い微笑を浮かべながら、ブツブツと呟き続けた。
ジェラウス・クーラン・クリシュアはルイフェンとさほど変わりなく、無言で床に座り込んでいる。
暴言や下卑たことを吐き出さない代わりに、内面に鬱屈を抱えている大きさは他の者よりも肥大かもしれない…と、監視する衛兵はその様子を書き留める。
何か発すればすかさず書こうとするのだが、時折ゆらりと身体を揺らすだけで、何も変化がない。
いや──
「……どう、して……ヒック……グスッ……ぼ、僕の…ほ…っが……王ぞ……あんな……キレ……うぅっ…グズッ…ヒ……ジ、ジーナざえっ……ぼ、ぼぐのぉ……およべじゃん……うっ…うわぁぁぁぁぁぁ~~~~~んっ!!」
グッと一層縮こまったかと思うと、グズグズと小さく鼻を啜り上げていたかと思うと、いきなり赤ん坊のように泣きだした。
「およべしゃんにぃ~!ずるんだぁぁぁ~~~じっ、ジーナぁぁぁぁ~~~~!!」
そのあまりの変化に担当している衛兵はドン引きしつつも、シーナ嬢に対する『愛の告白』を冷静に書き留めた。
「え?そんなに変か?いや、確かにお茶としては不思議な味だけど……?味?いや、蜂蜜の味?えぇ……?」
リュシアンは勢いよく呷ったせいで噎せたようだが、兄であるリオネルは用心深く啜ったおかげで、じっくりハーブティーを分析できたようである。
隣ではイストフも、そしてアルベールも首を傾げながら恐る恐る二口目を喉に流し込んだ。
「味は……紅茶と違って草っぽいかな。でもほとんど味はなくて、清涼感の方が強い。だから蜂蜜で香りと味をつけてるの。砂糖だと味はついてもミントの香りは和らがないから」
「ミント……」
「虫除けで使われるけど、こうやって服用することで胃のむかつきを抑えたり、馬車酔いも改善されたりするわ。口臭予防にも効果があるし解熱作用もあるけど、やっぱりメントールのおかげで気持ちを切り替えたり落ち着けてくれるの」
「……うわ、ほんとだ……」
ケプッと小さくげっぷをしたリュシアンが胃の奥から上がってきたミントの清涼感を感じたのだろう、パァッと表情を明るくする。
「兄様!すごいです。喉の奥がスッキリして……なんか良い感じです!」
「うん、本当だね……植物……いや、食用にできる図鑑ではないな……薬図鑑……?」
弟がキャッキャッとはしゃぐ横で、兄は新たな興味をかき立てられたようでジッとカップの中を覗いている。
イストフはゆっくりと自分のカップに口をつけながら、ルエナが少しずつミントティーを飲むのを見つめるリオン王太子を無言で見つめる。
そしてそれをやはり無言で見守るアルベールと、何も言わずに新たにティーポットからお茶を注ぐシーナ。
お湯で湧き立つミントの香りに噎せる者は、室内にはもう誰もいなかった。
王太子の学園側近のうち、イストフ以外の者は皆──ひとりうまく逃げおおせたベレフォン・ジュスト・ダンビューラ以外は学園内の懲罰房に入れられている。
それも生徒用ではなく使用人たちが入れられるものであるため、教室や教員室のある本館ではなく、物々しく衛兵たちが他者の接触を一切拒否するように監視していた。
「クソッ!何だってんだ?王子はいったい何やってやがる!!だいたいてめえの大事な側近が捕らえられたってぇのに……やっぱり、あいつぁ俺の上に立つ器じゃねぇ!!」
ガンガンと激しく石壁や鉄の扉を殴ったり蹴ったりするが、ディディエ・ファーケン・ムスタフに注意する者はいない。
実際は扉の外に立って見張ってはいるのだが、黙って次々と吐かれる暴言を書き留めている。
まさかそんな記録を残されているとも思わず、その言葉はだんだんと凶暴なものになっていくが、語彙があるわけではないのか同じようにリオン王太子を罵り、その側にあるシーナ嬢をどうにかして奪い去ってやると叫び続けた。
「あ~も~!兄様、どこ行ったのさぁ!ボクを置いてくなんて酷くない?!可愛い弟見捨てていくなんてさぁ!きっと今頃シーナねえさまをディーファンのいやらしい手から救い出したとかって殿下のところに行ってるのかなぁ……それならもうそろそろ、ここに来てもいいよねぇ……もしかして、もしかして?シーナねえさまに手ぇ出しちゃったぁ?ヒドいなぁ~……シーナねえさまはボクと一緒に愉しもうっていってたのにさぁ……」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……
ルイフェン・クウェンティ・ダンビューラが立てるそれは床石を引っ掻く音で、いつまでも止めない代わりに、彼の声はだんだんと小さくなっていく。
視線を感じさせない位置から覗く衛兵のことなど気にもしていないのか、小さな背をさらに丸めて薄気味悪い微笑を浮かべながら、ブツブツと呟き続けた。
ジェラウス・クーラン・クリシュアはルイフェンとさほど変わりなく、無言で床に座り込んでいる。
暴言や下卑たことを吐き出さない代わりに、内面に鬱屈を抱えている大きさは他の者よりも肥大かもしれない…と、監視する衛兵はその様子を書き留める。
何か発すればすかさず書こうとするのだが、時折ゆらりと身体を揺らすだけで、何も変化がない。
いや──
「……どう、して……ヒック……グスッ……ぼ、僕の…ほ…っが……王ぞ……あんな……キレ……うぅっ…グズッ…ヒ……ジ、ジーナざえっ……ぼ、ぼぐのぉ……およべじゃん……うっ…うわぁぁぁぁぁぁ~~~~~んっ!!」
グッと一層縮こまったかと思うと、グズグズと小さく鼻を啜り上げていたかと思うと、いきなり赤ん坊のように泣きだした。
「およべしゃんにぃ~!ずるんだぁぁぁ~~~じっ、ジーナぁぁぁぁ~~~~!!」
そのあまりの変化に担当している衛兵はドン引きしつつも、シーナ嬢に対する『愛の告白』を冷静に書き留めた。
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