157 / 267
未知
しおりを挟む
刺激臭に慣れていないこの世界の人たちが咳き込みや目を拭う動作を収めた頃、シーナはリオン王太子の横ではなく別の一人用ソファに座って特製のハーブティーを人数分淹れる。
「フルール小母様……えぇと、ディーファン公爵夫人から聞いていたんだけど……本当にここではミントは虫除けとかちょっとした香りづけにしか使わないからって……いろんな種類を集めていらっしゃったからその香りとか強さの違うエッセンスをオイルを分けていただいたの。それでその……アンモニウムも、少し」
「ああ、お前ソッチ系強かったもんなぁ……でも、メントール入れたら、アンモニウム臭も多少は和らぐか……」
ふむふむとリオンが納得したように頷いているのを、ルエナがポカンと見つめる。
それは彼女だけでなくイストフも同じで、王太子が専門知識のある博士のように理解しているのを疑問に思ったことを隠そうともしない。
「で、殿下……?一体何を……?」
「ん?ああ、これはアロマセラピーの応用で……」
「あ、あろま?せらぴぃ?」
詩音や凛音の世界では当たり前のように使われていたフラワーエッセンスはこの世界ではまだ芳香剤という役目がまだまだ主流で、香りが立つほどの生花をお湯に浮かべて入浴する貴族はいるが、平民にとってはそんな贅沢は夢のまた夢で、その花々を何百と使って蒸気抽出するフラワーエッセンスなど高価すぎて「妻の買い物に口は出さない」と金持ちアピールを欠かさない高位貴族の間でも小切手にサインをするのを躊躇うほどだ。
それに比べればミントやタイムなどは花ではなくその葉が原料のため、逆に加工などせずにそのまま使われるので子供たちが摘みに行って小遣い稼ぎをする『下手物』扱いで、高位貴族たちにとっては取るに足らない物としてその存在すら知らない者も多い。
ただしルエナやアルベールの母はさすがに『緑の指を持つ魔女』だけあって植物に対する興味が尽きず、そんな雑草ですら幾種類もの違いがあるのに気付いて栽培していたのである。
「おかげで恥をかかずに淑女が持つにふさわしい気付け薬を持つことができたし、これを国中に広めればミント系の入浴剤もできるかも……ね?って?うん?」
「え……?む、虫除けを使う……?う、嘘だろう………?」
突拍子もない『前世での記憶』に基づく発言に慣れているアルベールですら眉を上げてしまったのだから、イストフたちが声を上げるのも無理はない。
ルエナに至っては声を上げるどころか、そんな発想を気楽に言うシーナに対して嫌悪感を滲ませた視線を一瞬だけ向けてから顔を背けた。
「フルール小母様……えぇと、ディーファン公爵夫人から聞いていたんだけど……本当にここではミントは虫除けとかちょっとした香りづけにしか使わないからって……いろんな種類を集めていらっしゃったからその香りとか強さの違うエッセンスをオイルを分けていただいたの。それでその……アンモニウムも、少し」
「ああ、お前ソッチ系強かったもんなぁ……でも、メントール入れたら、アンモニウム臭も多少は和らぐか……」
ふむふむとリオンが納得したように頷いているのを、ルエナがポカンと見つめる。
それは彼女だけでなくイストフも同じで、王太子が専門知識のある博士のように理解しているのを疑問に思ったことを隠そうともしない。
「で、殿下……?一体何を……?」
「ん?ああ、これはアロマセラピーの応用で……」
「あ、あろま?せらぴぃ?」
詩音や凛音の世界では当たり前のように使われていたフラワーエッセンスはこの世界ではまだ芳香剤という役目がまだまだ主流で、香りが立つほどの生花をお湯に浮かべて入浴する貴族はいるが、平民にとってはそんな贅沢は夢のまた夢で、その花々を何百と使って蒸気抽出するフラワーエッセンスなど高価すぎて「妻の買い物に口は出さない」と金持ちアピールを欠かさない高位貴族の間でも小切手にサインをするのを躊躇うほどだ。
それに比べればミントやタイムなどは花ではなくその葉が原料のため、逆に加工などせずにそのまま使われるので子供たちが摘みに行って小遣い稼ぎをする『下手物』扱いで、高位貴族たちにとっては取るに足らない物としてその存在すら知らない者も多い。
ただしルエナやアルベールの母はさすがに『緑の指を持つ魔女』だけあって植物に対する興味が尽きず、そんな雑草ですら幾種類もの違いがあるのに気付いて栽培していたのである。
「おかげで恥をかかずに淑女が持つにふさわしい気付け薬を持つことができたし、これを国中に広めればミント系の入浴剤もできるかも……ね?って?うん?」
「え……?む、虫除けを使う……?う、嘘だろう………?」
突拍子もない『前世での記憶』に基づく発言に慣れているアルベールですら眉を上げてしまったのだから、イストフたちが声を上げるのも無理はない。
ルエナに至っては声を上げるどころか、そんな発想を気楽に言うシーナに対して嫌悪感を滲ませた視線を一瞬だけ向けてから顔を背けた。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる