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刺激
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ふふっ…ふふふっ……うふっ……ふふふふ……
おそらく先日まで危険と知らずに薬物を摂取していた事実と、その薬物が入ったお茶を飲まなくなったことによる情緒不安定さや、今まで自分が他人を見下してきたということを客観的に考えてみた結果の羞恥心や、誰が敵で誰が味方かという情報過多から起こる混乱、今まで婚約者らしさを保つというよりももっと他人行儀で物理的にも取っていたはずのリオン王太子の距離がゼロに近くなった時間の長さ、なのに彼が自分以外の時世に対して愛おしそうな眼差しを向けるところを本当に目にした時に感じたモヤモヤした胸の痛み、それらがルエナの感情を乱しているに違いない。
ふふ、ふふと上品に笑いながらだんだんと眼差しが虚ろになり、ポロリと雫が零れるのをきっかけに、ルエナは顔の筋肉を固まらせたまま透明な流れをその頬に幾筋もつける。
「ルッ…ルエナッ?!」
「ルエナ嬢?!おい?どうしたっ?!」
「ちょっとどいて!!」
まるで壊れたネジ巻き人形のようにルエナは目を見開いて感情を失くした声で小さく笑い、ユラユラと身体を小さく揺らすのを止めようとしたリオンを押しのけ、シーナがキュポッと小さな破裂音を立てて開けた小瓶を素早くルエナの鼻の下に宛がう。
「ふふっ…ふ…ヒック!ヒィックッ!」
ミント類を数種類混ぜたかなりキツめのメントールに少々の硝酸アンモニアを混ぜたオリジナルの気付け薬を嗅がされたルエナは、嗅ぎ慣れない匂いと共に立ち上った爽快というには刺激の強いメントールに目をシパシパと激しく瞬き、次いでしゃっくりを繰り返した。
純粋なアンモニウム気付け薬を作成して持っていてもよかったのだが、乙女の鞄の底で万が一蓋が外れた時のことを思うと、持ち運ぶのは少々躊躇われた。
もっとも専用のポケットを特別に作って収めてあるし、無断で誰かがこの小瓶を開けたところで目を刺されたように感じるほど刺激のある匂いで動けなくなるだろう。
メントール系の匂いには前世から慣れているリオンですら、シーナが何をするか察して目を作ってやや顔を背けて鼻をつまんでいるほどだったから、ルエナだけでなくアルベールやイストフ、リオネルとリュシアンも目を擦ったり咳き込んだりしていた。
「ゲホゥ!ゲホゲホげぇっほ……ウゥンッ……いっ、今のはっ……?」
「いいから!アル、あっちの窓を開けて!」
部屋に三つあるうちのリオンたちに一番近い窓を開けながら、シーナは比較的まともな質問を発せられるアルベールに指示をする。
この世界ではミントはまだまだ食用でも医療用でもあまり使用されていなく、抽出したそのままの濃度では毒と変わらないかもしれない。
おそらく先日まで危険と知らずに薬物を摂取していた事実と、その薬物が入ったお茶を飲まなくなったことによる情緒不安定さや、今まで自分が他人を見下してきたということを客観的に考えてみた結果の羞恥心や、誰が敵で誰が味方かという情報過多から起こる混乱、今まで婚約者らしさを保つというよりももっと他人行儀で物理的にも取っていたはずのリオン王太子の距離がゼロに近くなった時間の長さ、なのに彼が自分以外の時世に対して愛おしそうな眼差しを向けるところを本当に目にした時に感じたモヤモヤした胸の痛み、それらがルエナの感情を乱しているに違いない。
ふふ、ふふと上品に笑いながらだんだんと眼差しが虚ろになり、ポロリと雫が零れるのをきっかけに、ルエナは顔の筋肉を固まらせたまま透明な流れをその頬に幾筋もつける。
「ルッ…ルエナッ?!」
「ルエナ嬢?!おい?どうしたっ?!」
「ちょっとどいて!!」
まるで壊れたネジ巻き人形のようにルエナは目を見開いて感情を失くした声で小さく笑い、ユラユラと身体を小さく揺らすのを止めようとしたリオンを押しのけ、シーナがキュポッと小さな破裂音を立てて開けた小瓶を素早くルエナの鼻の下に宛がう。
「ふふっ…ふ…ヒック!ヒィックッ!」
ミント類を数種類混ぜたかなりキツめのメントールに少々の硝酸アンモニアを混ぜたオリジナルの気付け薬を嗅がされたルエナは、嗅ぎ慣れない匂いと共に立ち上った爽快というには刺激の強いメントールに目をシパシパと激しく瞬き、次いでしゃっくりを繰り返した。
純粋なアンモニウム気付け薬を作成して持っていてもよかったのだが、乙女の鞄の底で万が一蓋が外れた時のことを思うと、持ち運ぶのは少々躊躇われた。
もっとも専用のポケットを特別に作って収めてあるし、無断で誰かがこの小瓶を開けたところで目を刺されたように感じるほど刺激のある匂いで動けなくなるだろう。
メントール系の匂いには前世から慣れているリオンですら、シーナが何をするか察して目を作ってやや顔を背けて鼻をつまんでいるほどだったから、ルエナだけでなくアルベールやイストフ、リオネルとリュシアンも目を擦ったり咳き込んだりしていた。
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