婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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ニコニコしてはいるが、実際は怒りが籠っている。
どちらかといえば小柄なシーナが迫るその『侍女』は、顔を引き攣らせて無言のまま頭を下げて踵を返そうとし──そのままスカートを摘まんだ腕を掴まれた。
「なぁんてね。ドレスと髪型を変えたぐらいで、誤魔化せると思ってるの?どうなってんの?この世界の人。あなた、アタシの近くでごちゃごちゃ言ってた人だよね?名乗ってくれないから、名前はわかんないけど……見たことある顔。ルエナ様の取り撒きっぽいと思ってたけど、違ったのねぇ。ルエナ様の心配……してるわけじゃないわよね?だって取り巻き令嬢の誰ひとりからも、ご機嫌伺いのお手紙ひとつ届かなかったしねぇ~?」
「な……な、なん…っで……」
「え?だってあたし、リオン王太子に言われた通り、長期休暇の初日からルエナ様のお屋敷にいたんだもの。ルエナ様にヤバいもの来てたら、排除しないといけないでしょ?」
排除するべきは意味のない盛りを詰め込んだ意味のないルエナへの煽り──のはずだったが、そんなものは何ひとつ来なかった。
手紙以外にもお茶会へのお誘いのひとつでもあるかと思ったのに、それすらまったく来ず、逆に拍子抜けしたくらいである。
ある意味無駄な労力を割かずに済んだとは言えるが、取り巻きたちは思った通りハリボテの背景画に過ぎなかったようだ。

しかしこんなくだらない奴らに、激推しのルエナ様が傷つけられるなんて──

「……そんなわけで。もう二度と近づかないでね?ていうか誰にかはわからないけど、報告に行くのも止めてね?いや、行ってもいいけど……あなたの顔は完全に覚えたから、今後のあなたの動き次第では将来の嫁ぎ先に影響が出ると思うから、慎重に…ね?」
思わず最後の言葉には圧をガッツリかけてしまったが、どうやら女同士の駆け引きには不慣れらしいその令嬢は顔を引き攣らせ、コクコクと高速で頷くと腰を抜かして座り込んでしまった。
わざわざ自分のお付きの侍女か、別の令嬢の侍女服を着せられたのかは知らないが、ただのモブ令嬢にニヤリと振り返り笑いを追撃し、シーナは立ち入り禁止区域の扉を閉めてからしっかりと錠をおろす。
「さっきのはバーニア伯爵家の令嬢だ」
「知り合い?」
「……一応、俺はこの学園に在籍していたんだが」
「ほぉ」
思わず目付きが鋭くなってしまったのはきっと気のせいだとシーナは思い込もうとしたが、後から付いてきたはずのアルベールとシーナ嬢が見えないことに気が付いた男爵令息兄弟がヒョコッと扉から出した頭をそっと引っ込めたのを視界の隅に留め、慌てて微笑みかけたが時すでに遅し──であった。


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