128 / 267
偏考・1
しおりを挟む
いつもは静かな学園内に武装した衛兵たちがいつもより多く配置され、特に空いている教室を中心に『安全確認』が行われた。
詳細は語られなかったものの『人の口に戸が建てられない』のは、古今東西異世界関係ないのかもしれない。
『誰』ということまでは特定されていないものの、『何者か』を探しているのはいつの間にか知れ渡っており、将来的に王宮関連施設への配属を願って、士官希望の低位貴族令息が衛兵たちの役に立とうと纏わりついている。
「……まあ、根性があることは確かだな」
やんわりとだったりやや強めにだったりと対応する衛兵によって様々ではあったが、未熟な手伝い候補を退けているのを見て、アルベールが双方に感嘆の意を表する。
「公爵家後継者であれば、将来的に路頭に迷うことなどあり得ないでしょう。しかし我々次男以下であれば嫡男が何らかの理由で廃されなければ、己の足で立てることを証明する必要があります。そうでなければよほど裕福な家でもない限り、遊び暮らすというには程遠い肩身の狭い思いをしますから」
「そう…だな、確かに。エビフェールクス辺境侯令息も次男だったな」
「どうかイストフと。俺の場合は単純に故郷に帰りたくないから、王都で士官の道を得ようとしていたまで。王太子殿下と同じ学年に在籍し、学園内側近として選出されなければ、彼らと同じような行動をしていたでしょうね」
傍から見れば仲間を見捨てた寝返り組だが、イストフ・シュラー・エビフェールクスはさっぱりとした顔でアルベールの後ろから発言した。
「『辺境侯爵の息子』という贔屓目がなかったとは言いませんが、自分の剣の腕は学園内でも上位と自負しています。それ故に王太子殿下の学園内側近に選ばれた……ゆくゆくは卒業後にそのまま王宮側近のひとりになれるはずだと思っていました」
「それについては……」
「わかっています。学問成績での上位、運動成績での上位、人格、人望…我々は『選ばれた人間』ではなく、『選ばれる資格を得た側近候補者』だということは……しかし何故か、我々五人は『卒業後はディーファン公爵令息を排除し、そのまま王宮側近として王太子殿下と共に王宮に登る』と思い込んでいた……」
「思い込んでいた?」
「ええ……そうだ……どうしてだろう?こうやって冷静になれば、今はまだ『試験の途中』とわかるのに。少なくとも我々が繰り上がりで殿下の側近になれるなど……」
イストフが腑に落ちない表情で呟くと、シーナが軽く目を瞠った。
詳細は語られなかったものの『人の口に戸が建てられない』のは、古今東西異世界関係ないのかもしれない。
『誰』ということまでは特定されていないものの、『何者か』を探しているのはいつの間にか知れ渡っており、将来的に王宮関連施設への配属を願って、士官希望の低位貴族令息が衛兵たちの役に立とうと纏わりついている。
「……まあ、根性があることは確かだな」
やんわりとだったりやや強めにだったりと対応する衛兵によって様々ではあったが、未熟な手伝い候補を退けているのを見て、アルベールが双方に感嘆の意を表する。
「公爵家後継者であれば、将来的に路頭に迷うことなどあり得ないでしょう。しかし我々次男以下であれば嫡男が何らかの理由で廃されなければ、己の足で立てることを証明する必要があります。そうでなければよほど裕福な家でもない限り、遊び暮らすというには程遠い肩身の狭い思いをしますから」
「そう…だな、確かに。エビフェールクス辺境侯令息も次男だったな」
「どうかイストフと。俺の場合は単純に故郷に帰りたくないから、王都で士官の道を得ようとしていたまで。王太子殿下と同じ学年に在籍し、学園内側近として選出されなければ、彼らと同じような行動をしていたでしょうね」
傍から見れば仲間を見捨てた寝返り組だが、イストフ・シュラー・エビフェールクスはさっぱりとした顔でアルベールの後ろから発言した。
「『辺境侯爵の息子』という贔屓目がなかったとは言いませんが、自分の剣の腕は学園内でも上位と自負しています。それ故に王太子殿下の学園内側近に選ばれた……ゆくゆくは卒業後にそのまま王宮側近のひとりになれるはずだと思っていました」
「それについては……」
「わかっています。学問成績での上位、運動成績での上位、人格、人望…我々は『選ばれた人間』ではなく、『選ばれる資格を得た側近候補者』だということは……しかし何故か、我々五人は『卒業後はディーファン公爵令息を排除し、そのまま王宮側近として王太子殿下と共に王宮に登る』と思い込んでいた……」
「思い込んでいた?」
「ええ……そうだ……どうしてだろう?こうやって冷静になれば、今はまだ『試験の途中』とわかるのに。少なくとも我々が繰り上がりで殿下の側近になれるなど……」
イストフが腑に落ちない表情で呟くと、シーナが軽く目を瞠った。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。


婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる