婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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失策

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ずっと縛っておいた上に、どうにかして扉に体当たりを食らわしていたり罵詈雑言を室内から浴びせ続けていた学園側近三人は、体力を使い果たしたらしくて、ぐったりと項垂れたまま小脇に抱えられて連行された。
特に小柄なルイフェン・クウェンティ・ダンビューラ伯爵令息などは、さらにぐるぐる巻きにされてまるでミノムシのようである。
「ミノムシ……?」
「あ、知らない?ミノムシ。こう…自分のからだに糸と小さい葉枝なんかを巻きつけて脱皮や羽化するための『ミノ』っていう巣を作って……」
「い、いや!そういう形状になる幼虫は知っているが……ミ、ミノムシ?バグワモスのこと……なのか?」
「バグ……ああ、そうなの……英語名の捻りもない……」
「えいご?」
「ううん。『ミノムシ』ってそのバグ何とかの和名……えぇと、とにかくアタシやリオンが呼んでいた名前の虫。たぶん、アルの言うのと同じヤツ」
「ああ、そうなんだ……やっぱり」
もはやツッコミどころがありすぎて諦めた──そう見えるアルベールの気持ちもわからないではないが、こうして前世の記憶と現実を刷り合わせようとするのは、ひょっとしたら『詩音』としての自分自身を保つためなのかもしれない。

そこをすべて失くしてしまったら──

莉音も同時に『リオン・シュタイン・ダンガフ王太子』としての記憶しか残らないのならばいい。
そうでないのなら、兄ひとりが『詩音』と『シオン・ティア・オイン子爵令嬢』をずっと重ね合わせて、前世を忘れてしまって『低位貴族なのに、王太子に見初められた』と思い込むイタイ女子にはなりたくないのだ。
「今のところ、そんな心配はなさそうだけど……」
「どうしたんだ?」
ふと寂しそうに呟くシーナを、アルベールは心配そうに覗き込む。
そんな雰囲気のふたりを、一歩後ろに控えたイストフが痛みを堪えるような表情で見つめた。


王太子に追い出されたベレフォン・ジュスト・ダンビューラ伯爵令息は急いで仲間の元へ駆けつけ──てはいなかった。
代わりにズルズルと壁に背中を預けて座り込み、頭を抱えている。
壁の向こうには自分に謹慎を言い渡した王太子が在室し、キッパリと『婚約者』と言い切った公爵令嬢と抱き合っているだろう。
これが自分より身分が下の者──少なくとも侯爵家の者であっても、同じ学園に通う令息であればそのふしだらさを指摘して立場を逆転できるであろうが、王太子という身分差では諫言はできても排除はできない。
忌々しいディーファン公爵令嬢と、ディーファン公爵家──だが王太子が彼らを退けないのであれば、たかが伯爵家では、公爵令嬢が王太子自身を害しない限りは『失礼な態度』を指摘することすら難しかった。
「クソッ……このままでは、父上に……」
無能と蔑まれているわけではないが、やはり伯爵家当主として教育されている長男と自分は見比べられ、役に立つか立たないかで『息子』としての価値を推し測られているベレフォンとしては、学園内での王太子側近から正式な王宮内側近として取り立てられる以外、父に認めてもらえるとは思えない。
だからこそ一年だけ早く生まれたという利点を生かして、すでに王太子最側近としての立場を固めつつあるアルベール・ラダ・ディーファン公爵令息を引きずり降ろすつもりで、今まではず『婚約者交代』を目論んでいた。
シーナ子爵令嬢に惹かれつつも自分の打算を優先して、わざわざ彼女が王太子の横に立つように諦めたというのに、思わず手が出たせいですべてが台無しになろうとしている現状が信じられなかった。

いったい自分は、どこで分岐を間違ったのだろうか?


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