125 / 267
非難
しおりを挟む
とりあえずの経緯をアルベールではなく、イストフが進み出て話す。
それは愚かな下心と出世欲と間違った正義感を告白することに等しく、だんだんとイェーン衛兵長だけでなく、同行している兵たちも冷めた顔つきになっていった。
むろん前学期までのディーファン公爵令嬢のあまり褒められた者ではない目下の者への態度や、ある程度の親しみを持ってシーナとリオンが行動を共にしていたことは学園内を警備する衛兵たちは見聞きしていたが、そのことに関して接触したり介入する権利はなかったため見て見ぬ振りをしていたに過ぎない。
若い衛兵たちも皆この学園に通っていた貴族家の次男以下であったため、他人の婚約者に横恋慕したりひとりの令嬢を巡って恋の鞘当てがあったという記憶はあるが、まさか王太子の婚約者とその兄に対して暴挙に出るなどと、王宮勤めであったらその場で解雇された上に取り調べを受けて重罰が課されてもおかしくない行いである。
「……エビフェールクス辺境侯爵家に連なる者が、公爵令嬢に対して……」
「いや、子爵令嬢に対しても、まるでモノのように存在を軽々しく扱うなど……」
「辺境侯といえば国境において隣国との交渉も任される名門。だがその権力を振るう意味を理解していないとは……」
わざとだろう──衛兵たちはヒソヒソと、いやイストフに聞こえるように彼と彼の家を責める言葉を紡ぐ。
敢えて衛兵長も止めず、羞恥と後悔に項垂れたまま反論しない青年をジッと見つめた。
ここで己が行った行為の正統性を主張でもすれば、今度こそ薄っぺらいそのプライドを木っ端みじんに砕いてやろうと考えていたが、エビフェールクス辺境侯爵令息はボタリ、ボタリと床に滴を落としながらディーファン公爵子息とオイン子爵令嬢に向かって最大限に腰を曲げて謝罪の姿勢をとった。
「……もういい。止めろ、お前ら」
イェーン衛兵長のその一言でピタリと衛兵たちは口をつぐむ。
半分は芝居だったとはいえ、気持ちとしてはもう少し辛辣さがこもっていたかもしれない。
「彼の件に関しては王太子殿下に申し上げたいことがあるので、私預かりにしていただきたいのだが……よろしいだろうか?イェーン衛兵長」
イェーン衛兵長は年齢ではアルベールより十歳ほど上ではあるが、立場的には王太子の側近であるアルベールの方が強いため、本来ならば彼に断りを入れる必要はなかった。
だがそれでは王太子のために味方を作るどころか反感を買いかないし、だいたいアルベール自身も若輩の身で虎の威を借りるつもりはない。
その意図は正しく伝わったためアルベールの要求はすんなりと通り、代わりに衛兵たちが縛り上げた者たちを連れ出すために舞踏室へとなだれ込んだ。
それは愚かな下心と出世欲と間違った正義感を告白することに等しく、だんだんとイェーン衛兵長だけでなく、同行している兵たちも冷めた顔つきになっていった。
むろん前学期までのディーファン公爵令嬢のあまり褒められた者ではない目下の者への態度や、ある程度の親しみを持ってシーナとリオンが行動を共にしていたことは学園内を警備する衛兵たちは見聞きしていたが、そのことに関して接触したり介入する権利はなかったため見て見ぬ振りをしていたに過ぎない。
若い衛兵たちも皆この学園に通っていた貴族家の次男以下であったため、他人の婚約者に横恋慕したりひとりの令嬢を巡って恋の鞘当てがあったという記憶はあるが、まさか王太子の婚約者とその兄に対して暴挙に出るなどと、王宮勤めであったらその場で解雇された上に取り調べを受けて重罰が課されてもおかしくない行いである。
「……エビフェールクス辺境侯爵家に連なる者が、公爵令嬢に対して……」
「いや、子爵令嬢に対しても、まるでモノのように存在を軽々しく扱うなど……」
「辺境侯といえば国境において隣国との交渉も任される名門。だがその権力を振るう意味を理解していないとは……」
わざとだろう──衛兵たちはヒソヒソと、いやイストフに聞こえるように彼と彼の家を責める言葉を紡ぐ。
敢えて衛兵長も止めず、羞恥と後悔に項垂れたまま反論しない青年をジッと見つめた。
ここで己が行った行為の正統性を主張でもすれば、今度こそ薄っぺらいそのプライドを木っ端みじんに砕いてやろうと考えていたが、エビフェールクス辺境侯爵令息はボタリ、ボタリと床に滴を落としながらディーファン公爵子息とオイン子爵令嬢に向かって最大限に腰を曲げて謝罪の姿勢をとった。
「……もういい。止めろ、お前ら」
イェーン衛兵長のその一言でピタリと衛兵たちは口をつぐむ。
半分は芝居だったとはいえ、気持ちとしてはもう少し辛辣さがこもっていたかもしれない。
「彼の件に関しては王太子殿下に申し上げたいことがあるので、私預かりにしていただきたいのだが……よろしいだろうか?イェーン衛兵長」
イェーン衛兵長は年齢ではアルベールより十歳ほど上ではあるが、立場的には王太子の側近であるアルベールの方が強いため、本来ならば彼に断りを入れる必要はなかった。
だがそれでは王太子のために味方を作るどころか反感を買いかないし、だいたいアルベール自身も若輩の身で虎の威を借りるつもりはない。
その意図は正しく伝わったためアルベールの要求はすんなりと通り、代わりに衛兵たちが縛り上げた者たちを連れ出すために舞踏室へとなだれ込んだ。
5
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中


生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる