婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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非難

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とりあえずの経緯をアルベールではなく、イストフが進み出て話す。
それは愚かな下心と出世欲と間違った正義感を告白することに等しく、だんだんとイェーン衛兵長だけでなく、同行している兵たちも冷めた顔つきになっていった。
むろん前学期までのディーファン公爵令嬢のあまり褒められた者ではない目下の者への態度や、ある程度の親しみを持ってシーナとリオンが行動を共にしていたことは学園内を警備する衛兵たちは見聞きしていたが、そのことに関して接触したり介入する権利はなかったため見て見ぬ振りをしていたに過ぎない。
若い衛兵たちも皆この学園に通っていた貴族家の次男以下であったため、他人の婚約者に横恋慕したりひとりの令嬢を巡って恋の鞘当てがあったという記憶はあるが、まさか王太子の婚約者とその兄に対して暴挙に出るなどと、王宮勤めであったらその場で解雇された上に取り調べを受けて重罰が課されてもおかしくない行いである。
「……エビフェールクス辺境侯爵家に連なる者が、公爵令嬢に対して……」
「いや、子爵令嬢に対しても、まるでモノのように存在を軽々しく扱うなど……」
「辺境侯といえば国境において隣国との交渉も任される名門。だがその権力を振るう意味を理解していないとは……」
わざとだろう──衛兵たちはヒソヒソと、いやイストフに聞こえるように彼と彼の家を責める言葉を紡ぐ。
敢えて衛兵長も止めず、羞恥と後悔に項垂れたまま反論しない青年をジッと見つめた。
ここで己が行った行為の正統性を主張でもすれば、今度こそ薄っぺらいそのプライドを木っ端みじんに砕いてやろうと考えていたが、エビフェールクス辺境侯爵令息はボタリ、ボタリと床に滴を落としながらディーファン公爵子息とオイン子爵令嬢に向かって最大限に腰を曲げて謝罪の姿勢をとった。
「……もういい。止めろ、お前ら」
イェーン衛兵長のその一言でピタリと衛兵たちは口をつぐむ。
半分は芝居だったとはいえ、気持ちとしてはもう少し辛辣さがこもっていたかもしれない。
「彼の件に関しては王太子殿下に申し上げたいことがあるので、私預かりにしていただきたいのだが……よろしいだろうか?イェーン衛兵長」
イェーン衛兵長は年齢ではアルベールより十歳ほど上ではあるが、立場的には王太子の側近であるアルベールの方が強いため、本来ならば彼に断りを入れる必要はなかった。
だがそれでは王太子のために味方を作るどころか反感を買いかないし、だいたいアルベール自身も若輩の身で虎の威を借りるつもりはない。
その意図は正しく伝わったためアルベールの要求はすんなりと通り、代わりに衛兵たちが縛り上げた者たちを連れ出すために舞踏室へとなだれ込んだ。


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