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無礼・2
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だが今はそれよりも、ルエナ嬢のことである。
本来ならベレフォン如きの力で肩を押されたとしても、か弱き令嬢とはいえソファに倒れ込むぐらいで済んだだろう。
しかしシーナやディーファン公爵夫人とは違って、例え自宅の庭であっても土いじりや駆け回るような運動をせず、しかも長期休暇のほとんどを自室で閉じ籠って過ごす羽目になってしまったため、ルエナ嬢は体力どころか筋力までごっそりと失ってしまっていた。
そんな事情を知らなかったとはいえ、私憤を持って出会い頭に殴り飛ばすような勢いで公爵令嬢に手を上げたのは、間違いなく男であるベレフォン・ジュスト・ダンビューラ伯爵令息である。
貴族という以前に、人間としてあり得ない。
前世での記憶や常識と共に今世でのあるべき王族の矜持とリオン王太子の本来の性格に引っ張られ、リオンは自分がひどく冷酷な人間であることを俯瞰的に感じながら受け入れた。
「……去れ」
「……は?」
「この部屋から出て行け。二度と俺の前に顔を出すな。側近として振る舞うことも禁ずる。貴様の所業に対する沙汰は、国王陛下とご相談の上でダンビューラ伯爵家へ申し渡す」
「ひへっ……へっ、陛下っ…に……?な、何故っ……」
「何故?貴様がやったことが、ディーファン公爵家への侮辱だけと思っているのか?俺の婚約者に手を上げた……つまりは、次期国王への不敬と見なす。ああ、申し開きで『ルエナ嬢が王太子になれなれしく触れていた』とふしだらな行為に及ぼうということを匂わせようと思っているかもしれないが、逆だ……私の方が彼女に許しを得ようと口説いていた」
「は……へ……」
「そして彼女が自分の方こそと謝り、互いに譲らず、涙を止めたくて抱き締めていた……のだが。私たちの言動については、同室の者たちが証言する」
ベレフォンが『王太子への忠義』という名の見せかけの衣を纏い、感情のままにルエナ嬢を負傷させるまでのすべてを、王太子の側近だけではなくディーファン家の侍女や学園内の給仕係も同室に控えて見ていたのだ。
絶望にさらに顔を歪めて室内にいる使用人たちを見れば、彼らもまた王太子と同じように冷ややかな目で伯爵令息を眺めている。
「ああ、面倒だ……ついでに貴様の弟も連れて出て行け。ルエナ嬢への攻撃的な態度だけでなく、シーナ嬢に対する恋情などという戯言はもうたくさんだ。アレはアレで、俺にとってはまた大切な人間なのだから」
自分のやってしまったことがきっかけだったのかもしれないが、だがベレフォンの耳にはすべてが崩壊する音が聞こえた気がした。
本来ならベレフォン如きの力で肩を押されたとしても、か弱き令嬢とはいえソファに倒れ込むぐらいで済んだだろう。
しかしシーナやディーファン公爵夫人とは違って、例え自宅の庭であっても土いじりや駆け回るような運動をせず、しかも長期休暇のほとんどを自室で閉じ籠って過ごす羽目になってしまったため、ルエナ嬢は体力どころか筋力までごっそりと失ってしまっていた。
そんな事情を知らなかったとはいえ、私憤を持って出会い頭に殴り飛ばすような勢いで公爵令嬢に手を上げたのは、間違いなく男であるベレフォン・ジュスト・ダンビューラ伯爵令息である。
貴族という以前に、人間としてあり得ない。
前世での記憶や常識と共に今世でのあるべき王族の矜持とリオン王太子の本来の性格に引っ張られ、リオンは自分がひどく冷酷な人間であることを俯瞰的に感じながら受け入れた。
「……去れ」
「……は?」
「この部屋から出て行け。二度と俺の前に顔を出すな。側近として振る舞うことも禁ずる。貴様の所業に対する沙汰は、国王陛下とご相談の上でダンビューラ伯爵家へ申し渡す」
「ひへっ……へっ、陛下っ…に……?な、何故っ……」
「何故?貴様がやったことが、ディーファン公爵家への侮辱だけと思っているのか?俺の婚約者に手を上げた……つまりは、次期国王への不敬と見なす。ああ、申し開きで『ルエナ嬢が王太子になれなれしく触れていた』とふしだらな行為に及ぼうということを匂わせようと思っているかもしれないが、逆だ……私の方が彼女に許しを得ようと口説いていた」
「は……へ……」
「そして彼女が自分の方こそと謝り、互いに譲らず、涙を止めたくて抱き締めていた……のだが。私たちの言動については、同室の者たちが証言する」
ベレフォンが『王太子への忠義』という名の見せかけの衣を纏い、感情のままにルエナ嬢を負傷させるまでのすべてを、王太子の側近だけではなくディーファン家の侍女や学園内の給仕係も同室に控えて見ていたのだ。
絶望にさらに顔を歪めて室内にいる使用人たちを見れば、彼らもまた王太子と同じように冷ややかな目で伯爵令息を眺めている。
「ああ、面倒だ……ついでに貴様の弟も連れて出て行け。ルエナ嬢への攻撃的な態度だけでなく、シーナ嬢に対する恋情などという戯言はもうたくさんだ。アレはアレで、俺にとってはまた大切な人間なのだから」
自分のやってしまったことがきっかけだったのかもしれないが、だがベレフォンの耳にはすべてが崩壊する音が聞こえた気がした。
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