婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
121 / 267

仮病?

しおりを挟む
だからこそ貴賓室にノックもそこそこに飛び込んだベレフォン・ジュスト・ダンビューラ伯爵令息は、目の前の光景に理解が及ばず、ルエナ嬢が恥ずかし気にリオン王太子から離れようとしたところを逆に抱き締められる姿を直視してしまった。
何がどうして、あの気に食わない冷徹で悪どい公爵令嬢が王太子の腕の中に閉じ込められているのか──むしろ逃れようともがいているようにも見えたが、リオンは不躾に睨み付けるベレフォンから泣き顔を隠すかのように囲い込んでいる。
「なっ、何をしにきた?」
やや焦り気味とはいえ、なるべく王太子としての仮面を外さずに対応した──と思っているが、どうだろうか。
そんなふうに思いながらチラリとベレフォンを窺ったが、まさかふたりが抱擁を交わしているとは思わなかったようで、呆然とした顔をしている。
「な…何をっ………!無礼なっ!!」
だが次の瞬間には思考を立て直したらしく、リオンたちに向かって突進してくると、勢いよくリオンからルエナを離すべくその細い肩を強く叩いて引き離した。
「ルエナッ!!」
張り飛ばされた少女の弱った身体は軽く浮き、そのままテーブルに激突してから床に倒れ込んだ。
ピクリとも動かなくなった銀髪で覆われた少女を見下ろすベレフォンは勝ち誇った顔をしたが、自分がやったことを後悔するだけの暇もなく、丁寧にルエナ嬢を抱き上げたリオン王太子に睨みつけられて怯む。
「……お前はいったい、この病み上がりのか弱い女性に対して何をしたのか、わかっているのか?」
「はっ…ヒッ……?!」
ソファの上に横たえられたルエナ嬢の顔から、リオンが丁寧に梳くように髪を除けて怪我がないかと確認したが、その覗き込む視線にまったく反応しない人形のようなその顔は青褪めたままでとても健康的ではないとわかるほどやつれているのがベレフォンからも見てわかる。
「いっ…いぇ……て、てっき…り……その……ディーファン公爵…令嬢が、その、あの……け、仮病を……」
「仮病?」
「で、殿下のっ…き、気を引く…ために……」
「なるほど?お前はルエナ嬢のこの様子を見て、彼女が仮病を使ったとわかるのか?私がルエナ嬢に触れた時、驚くほど軽く細くなってしまっていた。突き飛ばしたお前の手には、彼女の重みがあったか?」

重み?

呆然と自分の手を見下ろすベルフォンは、王太子の言う意味を反芻し、記憶を手繰り──抵抗どころか、まるで紙人形でも押し倒したように何の手応えもなかったことに気付き、ルエナ嬢と変わらないほどに顔色を悪くした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...