113 / 267
恋心
しおりを挟む
そう言うシーナとアルベールは互いの顔を見、同時に頷く。
そのタイミングの良さは単なる『仲良し』ではなく、阿吽の呼吸で一緒にいるのが当たり前の存在──
「……どうしたの?」
「あ、いえ……」
ふとイストフには別の存在が頭をよぎり、シーナに抱いていた幻想的な恋慕の感情が薄れているのを見て取ったのか、シーナが訝し気にこちらに視線を寄こした。
いつもならこんなふうにチラリと見られただけで歓喜のあまり、『仲間』であるはずの学園内側近たちをすべて押しのけてシーナの横に立とうとしたかもしれないが、この数分の間で何かが徹底的に変わってしまったのである。
「いや……あれ……?何だろう……?おか、しい……」
激しい劣情も、燃え盛る庇護欲も、彼女のためなら命を捨てても構わずたとえ公爵家であっても打倒すべしという思考さえも鎮火し、ストンと気持ちが落ち着いていた。
心なしか自分の周りの空気すら、今までどんよりしていたのがくっきりと澄み渡っている気がする。
「……いえ、おふたりを見て……『幼馴染み』だと言われて……自分にも、そんな存在がいたな…と……」
「ふぅ~ん……それって、可愛い女の子でしょう?」
「なっ……!」
ニヨニヨとシーナが笑うと、イストフは一気に顔を赤くした。
今までそんなふうに考えたことはない。
あの子は常に可愛い妹で──いずれは義姉になり──
「あ…アルベール……殿……様っ……」
「いや、別に今さら改まれなくてもいいが……」
「あの!お、俺をっ!リオン王太子殿下の護衛側近として、推薦してもらうことは可能でしょうかっ?!」
「ん?」
「え?」
「もし……仮に、いや本当に……ルエナ…嬢が、リオン殿下とご成婚なさるならば、我が兄の配偶者にという話はなくなります。しかしそれでは、十二歳も年の離れた幼い婚約者を手放すという話も有耶無耶に終わるでしょう。いや、俺だって彼女とは七つも違うから、あっちがどう思っているかわからないけど……たった今、思い出した……どうして忘れていたのかわからないけれど……俺、あの子が好きだったんです」
晴れ晴れとしたその表情に嘘はなく、代わりに何やら強い使命感を見出したその表情で、イストフは黙ったままのアルベールに訴えかける。
「今の彼女は十一歳です。五年後の十六になれば、兄との婚姻式が行われてしまう。だったらその五年後までに俺は王太子護衛側近頭として名を上げ、彼女を攫います!」
「ええええ……」
攫うのは確定なのかと、シーナがやや引き攣った顔で呻いた。
そのタイミングの良さは単なる『仲良し』ではなく、阿吽の呼吸で一緒にいるのが当たり前の存在──
「……どうしたの?」
「あ、いえ……」
ふとイストフには別の存在が頭をよぎり、シーナに抱いていた幻想的な恋慕の感情が薄れているのを見て取ったのか、シーナが訝し気にこちらに視線を寄こした。
いつもならこんなふうにチラリと見られただけで歓喜のあまり、『仲間』であるはずの学園内側近たちをすべて押しのけてシーナの横に立とうとしたかもしれないが、この数分の間で何かが徹底的に変わってしまったのである。
「いや……あれ……?何だろう……?おか、しい……」
激しい劣情も、燃え盛る庇護欲も、彼女のためなら命を捨てても構わずたとえ公爵家であっても打倒すべしという思考さえも鎮火し、ストンと気持ちが落ち着いていた。
心なしか自分の周りの空気すら、今までどんよりしていたのがくっきりと澄み渡っている気がする。
「……いえ、おふたりを見て……『幼馴染み』だと言われて……自分にも、そんな存在がいたな…と……」
「ふぅ~ん……それって、可愛い女の子でしょう?」
「なっ……!」
ニヨニヨとシーナが笑うと、イストフは一気に顔を赤くした。
今までそんなふうに考えたことはない。
あの子は常に可愛い妹で──いずれは義姉になり──
「あ…アルベール……殿……様っ……」
「いや、別に今さら改まれなくてもいいが……」
「あの!お、俺をっ!リオン王太子殿下の護衛側近として、推薦してもらうことは可能でしょうかっ?!」
「ん?」
「え?」
「もし……仮に、いや本当に……ルエナ…嬢が、リオン殿下とご成婚なさるならば、我が兄の配偶者にという話はなくなります。しかしそれでは、十二歳も年の離れた幼い婚約者を手放すという話も有耶無耶に終わるでしょう。いや、俺だって彼女とは七つも違うから、あっちがどう思っているかわからないけど……たった今、思い出した……どうして忘れていたのかわからないけれど……俺、あの子が好きだったんです」
晴れ晴れとしたその表情に嘘はなく、代わりに何やら強い使命感を見出したその表情で、イストフは黙ったままのアルベールに訴えかける。
「今の彼女は十一歳です。五年後の十六になれば、兄との婚姻式が行われてしまう。だったらその五年後までに俺は王太子護衛側近頭として名を上げ、彼女を攫います!」
「ええええ……」
攫うのは確定なのかと、シーナがやや引き攣った顔で呻いた。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。


婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる