婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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幻想

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イストフが口籠り、シーナを見た。
先ほどまでイストフを含めた側近たちを見ていた冷たい目付きではなく、少し頬を染めて視線を落とし口元を緩めている様は、本人は気付いているのかわからないがこの姿こそを描きとめたいと願う画家がいてもおかしくない。

あの微笑みを自分にだけ向けてくれたら。
自分が囁く愛の言葉でもっと全身を薔薇色に染め、熱い指先で導いてくれたら。
桜色の唇を微かに開き、初めての口づけを、触れ合いを、その白い身体に刻み込めたなら。

だがそんな幻想を打ち砕くように、シーナがまだ赤みを残す顔をツンと上げ腕を組むと、アルベールの申し出をすげなく断った。
しかもかなり乱暴な話し方で。
「ジョーダンじゃないわ!大きなお世話!てめぇの面倒ぐらい、てめぇで看られるってぇの!何だったらまた男のカッコでもして誤魔化してみせらぁ!」
「またそんな話し方をして……」
イストフは呆然とするだけだったが、アルベールは慣れているように苦笑する。
「だいたいもうそれだけ女性らしくなっちゃったんだから、今さら男装とか無理だろう?」
「何言ってんの?アルは知らないだろうけど、女性だけの劇団ってあるのよ?お化粧で超イケメンな男役になる美人がたっくさんいるんだから!髪染めてこうオールバックにすれば……ね?アタシだってまだまだイケるわよ?」
「いやダメだって……殿下にも止められてるから。『シオンなら絶対そっち方面で雲隠れしようとするから。絶対バレるのに』って」
「チッ………」
呆れ笑いをしながらアルベールが制止する理由を述べると、令嬢にあるまじき舌打ちを普通に響かせるシーナに、イストフは呆れるというよりも恐れをなしたようだ。
今やその顔からは恋焦がれるという感情よりも、何か見たことのないモノを見たような怯えを強く浮かべているのを見て、シーナはその可愛らしい顔に似合わない凄みのある笑みを浮かべる。
「わかった?アタシは元々育ちがそんなに上品じゃないの。ルエナ様のような完璧な令嬢を期待していたんならおあいにく様。見よう見まねで淑女の礼カーテシーやご挨拶はできるけど、そんなのメッキよ。生まれつきの貴族令嬢のような教育も受けていないし、ましてや『妻は夫の所有物』なんて思考はさらさら持ち合わせていないの。そしてリオンもアル…アルベールも、『これがアタシ』だって理解して受け入れて一緒に大きくなったの」
「いっしょに……?」
「あ~……『一緒』は言いすぎね。でもまあ、いわゆる『幼馴染み』に近いわね、アタシたち」


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