婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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想像

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念のためにイストフの護衛護身用の剣を取り上げ、その上でアルベールと共にまだ気絶している側近たちを縛り上げて、空き教室に閉じ込めた。
それから逃げたベレフォン・ジュスト・ダンビューラ伯爵令息が単身でか、それとももっと援護を呼んで帰ってくることを考え、三人でその教室の扉の前に椅子を置いて座ってから話し始める。
「これから話すことはある程度憶測・・を含んでいるの。ただ、リオン…殿下」
「シーナ……呼びづらいなら、いつも通りにした方が良くないか?」
「いや、きっとアタシのその呼び捨ても、皆に勘違いさせる一因じゃないかと思うのよね……」
「……いったい、何の話……?アルベール様、何故シーナ嬢を呼び捨てに……というか、呼び方?」
今までと一転して──シーナは変えたつもりはないのだが、見方の変わったイストフはアルベールとの距離が近いことに気が付き、アルベールに対しても失礼な態度を改めた。
「端的に言うと、アルとアタシとリオンは、四歳と五歳からの幼馴染み」
「俺の方が少しだけリオン殿下と付き合いが長いな……今は」
「あ、そうね。それより前・・・・・はノーカンでいいよ」
「のーかん……」
「あ!違う違う!『数に入れない』って意味だから。だからアルの認識であってる!大丈夫!」
うんうんとシーナは頷くが、まったく理解できていないイストフは、まるでじゃれているようなふたりのやり取りを黙って聞いているしかできない。
「……話を元に戻すとね?ルエナ様とはだいたい年に二回ぐらい顔を合わせていたんだけど、アルはけっこう早い時期からリオンの側近候補として側にいて、アタシも父が今の国王陛下と学友だったという縁でリオンの遊び友達みたいな感じで会えたの」
「そ、そんな……でも、殿下の側に君がいた記憶なんか……」
イストフの実家は王都からかなり離れた辺境侯爵領のため、独自の学習方針を持っており、イストフ自身は王都の貴族子女とは一年遅れで学園の高等部に入学した。
そのため本来ならばアルベールと同学年のはずだったが、一歳年下のリオンと机を並べることとなったのである。
それはある意味、エビフェールクス侯爵が意図的に行ったものかもしれない。
何せリオン王太子殿下と同学年ということは、また同い年であるルエナ公爵令嬢とも親しくなるチャンスがあるということだからだ。
そういえばアナザーというかifストーリーで、ルエナが修道院ではなく、王都からかなり離れたエビフェールクス辺境侯爵領へと追いやられ、互いに嫌い合いながらイストフの妻となって無理やり身体を弄ばれるという胸糞悪い創作もあったのを思い出したシーナは、理不尽にイストフを睨みつけてしまった。
「……えっ?な、何?何故そんな睨みつける……そ、そんなに嫌われているのか……俺は……」
「……えっ!あっ!!ご、ごめん……今のあなたには関係のない……その、仮定の話・・・・で思い出したことが……」
「それはひょっとして、この男が関係あるのか?」
さすがに言いがかりに過ぎるとシーナは素直に謝ったが、アルベールがスッと冷たい怒気を放つ。
「いや……それはさすがに本編には関係ないというか……」
「話してくれ」
ずいっと詰め寄られ、シーナは顔をふたりから逸らし、ボソボソと概要だけ早口で話す。
「ルッ、ルエナ様が修道院にやられる代わりに、イストフに嫁がされて、ふたりとも嫌い合っているのに、結婚生活……というか、初夜に嫌がって抵抗する公爵令嬢を無理に犯して興奮するっていう……変態的性格なイストフが描かれている話があって……」
「なっ………」
「そっ、そんなっ!たとえ意に沿わぬ婚姻だったとしても、公爵令嬢に対して無体を行うなどっ……騎士として誓う!俺は絶対に女性に対してそのようなっ……むしろ別邸に住まわせて、ほぼ顔も会わせないっ……」
それもそれでどうかとは思うが、現実のイストフは本当にルエナを嫌いきっていて、たとえ王太子の命令でもまともな夫婦生活を営むことはあり得ないだろう。
つまりルエナにとって生涯生きるのが修道院か、辺境侯爵領のさらに辺鄙な所であるかの違いでしかない。
そしてきっとイストフは、ルエナが生きているか死んでいるかの報告だけで、王都で必要な社交にすら連れてこない可能性だって──
「うん……それはそれで、想像したら腹が立ってくる」
今度は自分の妄想にふつふつと怒りを滾らせ、やはりシーナはイストフを睨みつけた。


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