106 / 267
驚愕
しおりを挟む
そういえば、とアルベールは思い返す。
前世の記憶を思い出し、それを維持しているというリオンとシーナ。
それぞれ前世では凛音と詩音という男女の双子だったと言い、まるで口裏を合わせたようにぴったりと話す『過去』が一致するのを、幼いアルベールは呆然と眺めるしかなかった。
まるで答え合わせるかのように活き活きと『攻略対象』の話をし、その頃はまだ詳しく知り合ってもいない彼らの『将来の姿』と詩音──いや、『シーナ・ティア・オイン子爵令嬢』となった後のルエナ断罪劇救出作戦など、想像どころか単なる妄想話と聞き流していたが。
「しかしそれなら、最初からルエナにも事情を話していた方がよかったのでは……?」
「と、実はアタシも思っていたし、きっとリオンもそう考えていたと思うのよね……」
「……ああ、そうか……」
幼すぎるルエナを巻き込んだ長期的なディーファン家没落計画だと思われる企みは、すでに五歳のルエナに絡みつき、毒となるお茶を服用させることですでに発動していた。
まさかそんな昔から──?
「………な…んの……はなし……?」
ボンヤリとしたその声は、さすがというべきか鍛えていたイストフ・シュラー・エビフェールクスだ。
アルベールの当て身でしっかり気絶していたのは最初だけで、意識がはっきりしないまま話を聞いていたらしい。
「……お前には関係がない……と言いたいところだが」
「そうだねぇ……せっかくだから、こっち側に加担してもらおうか。アタシもひとりでも面倒な奴を減らしたい」
「めん…ど……」
おそらくリオンの側近の中ではまだまともな方だと自分で思っていたらしいが──事実そうではあるのだが──シーナの冷たい目付きに気付き、それが自分も含まれていることにイストフの目から濁りが消えていく。
「お…俺は……ひょっとして、君に…嫌われて、いたんだろうか……」
「え?やっと?」
確かにイストフだけがシーナの見た目以外の部分にも興味を持ってくれた男だとはいえ、ゲームや小説ではないこの現実世界でも、シーナのふんわりとした雰囲気とは真逆のルエナに対して『まるで心のないガラス作りのように冷たく、王太子にとって価値のない女』と常々言っていたのを許してはいない。
だからといってシーナがイストフやその他の側近たちに対して優しく話しかけたりしていたということはなく、むしろおかしなゲーム修正が入らないようにと当たり障りなく微笑んでいただけである。
「で…も……でぃーふぁ……閉じ込め……ゴホッ……」
さすがに動き出したとはいえ、強く剣で殴り飛ばされたダメージはまだ残っているらしくイストフは咳き込んだ。
「閉じ込められたんじゃなくって、リオン…殿下の手配で、ディーファン公爵夫妻に匿ってもらっていたのよ……私も身の危険があったから」
「………は?」
驚いた表情を浮かべたイストフはゆっくりと身体を起こし、「シーナ嬢を解放しろ!」と怒鳴りつけて打ち倒そうとして返り討ちしてきたアルベールに視線をやった。
前世の記憶を思い出し、それを維持しているというリオンとシーナ。
それぞれ前世では凛音と詩音という男女の双子だったと言い、まるで口裏を合わせたようにぴったりと話す『過去』が一致するのを、幼いアルベールは呆然と眺めるしかなかった。
まるで答え合わせるかのように活き活きと『攻略対象』の話をし、その頃はまだ詳しく知り合ってもいない彼らの『将来の姿』と詩音──いや、『シーナ・ティア・オイン子爵令嬢』となった後のルエナ断罪劇救出作戦など、想像どころか単なる妄想話と聞き流していたが。
「しかしそれなら、最初からルエナにも事情を話していた方がよかったのでは……?」
「と、実はアタシも思っていたし、きっとリオンもそう考えていたと思うのよね……」
「……ああ、そうか……」
幼すぎるルエナを巻き込んだ長期的なディーファン家没落計画だと思われる企みは、すでに五歳のルエナに絡みつき、毒となるお茶を服用させることですでに発動していた。
まさかそんな昔から──?
「………な…んの……はなし……?」
ボンヤリとしたその声は、さすがというべきか鍛えていたイストフ・シュラー・エビフェールクスだ。
アルベールの当て身でしっかり気絶していたのは最初だけで、意識がはっきりしないまま話を聞いていたらしい。
「……お前には関係がない……と言いたいところだが」
「そうだねぇ……せっかくだから、こっち側に加担してもらおうか。アタシもひとりでも面倒な奴を減らしたい」
「めん…ど……」
おそらくリオンの側近の中ではまだまともな方だと自分で思っていたらしいが──事実そうではあるのだが──シーナの冷たい目付きに気付き、それが自分も含まれていることにイストフの目から濁りが消えていく。
「お…俺は……ひょっとして、君に…嫌われて、いたんだろうか……」
「え?やっと?」
確かにイストフだけがシーナの見た目以外の部分にも興味を持ってくれた男だとはいえ、ゲームや小説ではないこの現実世界でも、シーナのふんわりとした雰囲気とは真逆のルエナに対して『まるで心のないガラス作りのように冷たく、王太子にとって価値のない女』と常々言っていたのを許してはいない。
だからといってシーナがイストフやその他の側近たちに対して優しく話しかけたりしていたということはなく、むしろおかしなゲーム修正が入らないようにと当たり障りなく微笑んでいただけである。
「で…も……でぃーふぁ……閉じ込め……ゴホッ……」
さすがに動き出したとはいえ、強く剣で殴り飛ばされたダメージはまだ残っているらしくイストフは咳き込んだ。
「閉じ込められたんじゃなくって、リオン…殿下の手配で、ディーファン公爵夫妻に匿ってもらっていたのよ……私も身の危険があったから」
「………は?」
驚いた表情を浮かべたイストフはゆっくりと身体を起こし、「シーナ嬢を解放しろ!」と怒鳴りつけて打ち倒そうとして返り討ちしてきたアルベールに視線をやった。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。


断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる