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薔薇
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その後もアルベールによるシーナの社交的スキルを問い質している間、リオンはルエナと共に教室に──ではなく、王族にだけ特別に用意されている執務室に籠っていた。
通常であればこの部屋にはルエナではなく学園での側近たちが控えているというか入り浸っているが、さすがに存在するかどうかもわからない『ルエナに関して陰口を叩いていた人間』を複数『探す』ために学園中を動き回っているはずで、この部屋に迂闊に近寄ることはないだろうと思っての行動である。
逆にルエナはソワソワと落ち着かなく、リオンと補佐役の執務机の上にそれぞれ置かれた書類の束をチラチラと見ている。
「……気になる?」
「えっ……ええ……わたくしのせいで、殿下たちのお仕事が滞っては……」
自分が側にいては学園内の側近たちが誰もこの部屋に入っては来られず、結果的に王太子たちの執務の邪魔をしてしまうのでは、何のために今まで学園内では婚約者面をせずに遠慮をしていたのかわからない。
初めは確かにそう思っていたはずだった。
しかしそのルエナの心遣いがいつの間にかリオン王太子と親しく交流するための努力を放棄しているように見られるようになり、何故かルエナ自身も自分は王太子を避けねばならないと、何か伝えねばならないことなどがあると侍女などを遣わせて言葉を運んだ。
それはシーナが現れてからはさらに顕著となり、『平民から養女として引き取られた礼儀知らずを連れ回すだらしない婚約者』とリオンをいつしか見下すような態度へと変化していったのである。
それがクスリの影響だったとしても、本当ならばあの長期休暇前に宣言されそうだった『婚約破棄』という言葉がもっと重い国王両陛下の御前で実現していたかもしれない。
それが実現しなかったのは────
「ん?どうしたの?」
目の前にいる、お方。
何故だかわからないが、子爵令嬢を学園内の散策に連れて歩いていると知った時は、リオン王太子殿下への苛立ちもあったが、それよりもシーナ・ティア・オイン子爵令嬢に対する感情は──一言で言ってしまえば『殺意』
学園内ではほぼシーナ嬢を目にしないように気を付けていたのに、彼女が殿下と共に一緒にいるということを教えてくれる者たちがいつもそばにおり、しかもあれこれと尾鰭をつけ盛り上げて彼女を排除するようにと唆してきた。
なぜ自分の目でしっかりとふたりの様子を見、その事実を受け止めてから判断しなかったのか──今ようやく霞みがかっていた思考力が戻り、落ち着いてみれば自分の行動に疑問ばかりが募る。
「香りが強すぎたかな?君のお母上の庭には食用にできるバラも植えてあって、それらの砂糖漬けを分けてもらったんだ。普通のお茶では君の神経に障るかもしれないから、ハーブティーやそういった花茶の方がいいらしい」
「らしい……とは?」
「ああ、シーナ嬢が教えてくれた。彼女はあるルートで、この国には伝わっていないハーブや食べられる花の利用方法を知っているんだ。特に今君に出したそのローズティーは、香りから女性にとって良い効果をもたらしてくれるそうだよ」
「シーナ…様……が……」
湯気の立つカップを口元に近付けるとふわりと気持ちが高揚するような甘い香りが鼻孔を擽り、口に含めば砂糖の甘さとわずかな青臭さと共にやはり香りが喉を滑り落ちていく。
ルエナはその華やかさに身を満たされ、ポロリと真珠のような涙を溢した。
通常であればこの部屋にはルエナではなく学園での側近たちが控えているというか入り浸っているが、さすがに存在するかどうかもわからない『ルエナに関して陰口を叩いていた人間』を複数『探す』ために学園中を動き回っているはずで、この部屋に迂闊に近寄ることはないだろうと思っての行動である。
逆にルエナはソワソワと落ち着かなく、リオンと補佐役の執務机の上にそれぞれ置かれた書類の束をチラチラと見ている。
「……気になる?」
「えっ……ええ……わたくしのせいで、殿下たちのお仕事が滞っては……」
自分が側にいては学園内の側近たちが誰もこの部屋に入っては来られず、結果的に王太子たちの執務の邪魔をしてしまうのでは、何のために今まで学園内では婚約者面をせずに遠慮をしていたのかわからない。
初めは確かにそう思っていたはずだった。
しかしそのルエナの心遣いがいつの間にかリオン王太子と親しく交流するための努力を放棄しているように見られるようになり、何故かルエナ自身も自分は王太子を避けねばならないと、何か伝えねばならないことなどがあると侍女などを遣わせて言葉を運んだ。
それはシーナが現れてからはさらに顕著となり、『平民から養女として引き取られた礼儀知らずを連れ回すだらしない婚約者』とリオンをいつしか見下すような態度へと変化していったのである。
それがクスリの影響だったとしても、本当ならばあの長期休暇前に宣言されそうだった『婚約破棄』という言葉がもっと重い国王両陛下の御前で実現していたかもしれない。
それが実現しなかったのは────
「ん?どうしたの?」
目の前にいる、お方。
何故だかわからないが、子爵令嬢を学園内の散策に連れて歩いていると知った時は、リオン王太子殿下への苛立ちもあったが、それよりもシーナ・ティア・オイン子爵令嬢に対する感情は──一言で言ってしまえば『殺意』
学園内ではほぼシーナ嬢を目にしないように気を付けていたのに、彼女が殿下と共に一緒にいるということを教えてくれる者たちがいつもそばにおり、しかもあれこれと尾鰭をつけ盛り上げて彼女を排除するようにと唆してきた。
なぜ自分の目でしっかりとふたりの様子を見、その事実を受け止めてから判断しなかったのか──今ようやく霞みがかっていた思考力が戻り、落ち着いてみれば自分の行動に疑問ばかりが募る。
「香りが強すぎたかな?君のお母上の庭には食用にできるバラも植えてあって、それらの砂糖漬けを分けてもらったんだ。普通のお茶では君の神経に障るかもしれないから、ハーブティーやそういった花茶の方がいいらしい」
「らしい……とは?」
「ああ、シーナ嬢が教えてくれた。彼女はあるルートで、この国には伝わっていないハーブや食べられる花の利用方法を知っているんだ。特に今君に出したそのローズティーは、香りから女性にとって良い効果をもたらしてくれるそうだよ」
「シーナ…様……が……」
湯気の立つカップを口元に近付けるとふわりと気持ちが高揚するような甘い香りが鼻孔を擽り、口に含めば砂糖の甘さとわずかな青臭さと共にやはり香りが喉を滑り落ちていく。
ルエナはその華やかさに身を満たされ、ポロリと真珠のような涙を溢した。
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