婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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撃退

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何人かの令嬢はアルベールに近付きたくてうずうずしているらしいのを、シーナは見て取ったが、特に仲を取り持つ必要は感じず、放置していた。
だいたいこっそりとではあるが、見悶えたりガクンと頭を倒すシーナを背後からアルベールが覗き込んでいるのを見て、無作法に話しかけてこられるほどこの世界の『貴族』という階級の人間たちは礼儀知らずではない。

──と思ったのだが。

「ちょっと!あなた!!」
「……うわぁ……」
意を決したように近づいたはいいものの、顔を真っ赤にしてブルブル震えている令嬢の姿がそこにあった。
どこから来たのかと思えば、教壇前に据えられた豪奢な造りの机が一つ空いている。
「……ああ……えぇと……カシミール、様?でしたっけ?」
確かハーブティーのような名前だったはず。
(それはカモミールか……)
「ええ!ちゃんと学友の名前ぐらいは覚える頭があったのですね!」
「……シーナ嬢への言伝だろうか?私が承ろう、ロキア侯爵第三令嬢」
「はっ、はひぃっ!」
おそらく彼女はシーナに向かって何か文句を言いにきたらしいが、スッとアルベールが視界を遮るようにシーナと対峙する令嬢との間に入った。
一瞬ディーファン家の庭にカモミールが咲いていたかと考えてしまったシーナが答えるよりも早いその行動に、裏返った声でカシミール嬢は返事をする。
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃんでもっ…」
「いえっ、何でもっ、ありませんわっ!し、失礼いたしますっ!」
何やら噛みながらどもるカシミール嬢に代わって別の令嬢の声が聞こえ、シーナには何も見えないままサラサラと衣擦れの音がいくつも離れていくのだけが聞こえる。
「ねえねえねえ?今のは私のお客様よね?」
「そのようですがね、お嬢様」
「何で追い返しちゃったの?」
「何で追い返されちゃったんでしょうねぇ」
「ふ~ん……なんか、騎士様に守られてるみたいね?ふふふ……」
「守られてばかりいてくれればいいんだけどな、君は……」
「アハハ!アタシがそんなつまんないもんなわけないでしょう?だったらこの席に座るどころか、貧民街の路地裏で冷たくなってるか、暖を求めて娼館でクスリ漬け娼婦よ」
そう自虐的に笑うが、前世での自分自身はともかく、今のこのピンクブロンドと人形のような可愛らしい容姿がよからぬ情欲を抱かせる原因となり得ることは理解していた。
それはシーナ自身だけでなく、父親も。
だからこそ父は娘を一時もひとりきりにはさせず、連れ歩く時には男児のような格好と髪の毛と顔を汚して見栄えを隠していたのである。

おまけにこの世界は前世の日本よりかなり治安が悪い。

これはもう『異世界あるある』で諦めねばならない『男女格差』とか『貴賤差別』とか、前世で乗り越えてきた人類の歴史を巻き戻して経験しているようなものだから、シーナとしては『人的財産』として実父たちに売り飛ばされなかっただけでも良しとしたい。
──もっとも、『娼館に売り飛ばされてもう男性経験のあるヒロインが高校生レベルの貴族学園に入って、攻略対象と恋愛日常を楽しむ』というゲームがあるとしたら、かなり斬新かもしれないが。
「……そういや別に処女かどうかなんて、ゲーム内では言及されていなかったな……」
「しょっ……シ、シーナっ…嬢……もう少し小さな声でっ……」
「んん?」
アルベールの注意喚起の声に我に返ると、シーナは遠巻きにしながらもこちらの様子をうかがう同級生たちの存在があったことを、ようやく思い出した。


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