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教室
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そうして辿り着いた教室の、シーナ・ティア・オインに割り当てられた最後尾の席のさらに後ろ。
黒々とした盾のように、白が基調の子爵令嬢を守るアルベール・ラダ・ディーファンが立つ。
正面や左側から覗けば、その暗い色のスーツにはシーナの色が小さな花びらのように挿されているのが見え、前の席に座る高位貴族の子供たちが振り返っては顔を寄せ合った。
「……こういう時は身分制度に感謝するわ。取るに足らない平民上がりの子爵家の娘なんて騎士爵家と同等で十分よ」
「しかし……本来ならば、シオンの……シーナの席は、あのあたりだろう?」
そっと腰をかがめて頭越しにアルベールの声が降ってくる。
視線だけで差し示すのはきっと男爵家よりやや前の席で固まっている一団のあたりだろうが、シーナがいるのは男爵家よりもさらに後ろの、騎士爵家の者が座る場所だ。
しかもなるべく彼女から席を離して座っているのだから、学校における『イジメ』に貴賎も世界も関係ないようだ。
「ある意味、新鮮」
ポツリとシーナは呟く。
幸いなことに前世では学校でボッチになることはなく、かといって去られて寂しいというほど濃密な友人関係はなく、『学内ではお友達』という付き合いであったが、こんなふうにあからさまに態度にされることはなかった。
ひょっとしたら長期休暇に入る前から精神的にはこういう状態だったのかもしれないが、少なくとも目視できる状態ではなかったのだろう。
「嘆かわしいな」
「アル……アルベールの時は?まあ、私たちとはたった一年しか違わないけど、こういうことってやっぱりあったんじゃないの?」
「どうだろうな……家同士の確執が子供にまで及ぶということは……うぅむ……俺はいつも殿下の側にいたからな……」
「ああ、『特別枠』になっちゃうのか。そりゃぁ絡まれようがないわね」
「う、うむ……参考にならなくて、すまない……だいたいはこの学園に在学中に家督を継ぐのか、他に道を選ぶのかという選択になるが……俺の場合はもう、あの頃から決まっていたから」
ふっとアルベールは遠い目をするが、同じくシーナも遠い目になる。
五歳のあの時──
「ある!あるべーる!!ごめん!ぼくのおよめさんはきみのいもうと…るえなじょういったくで!!」
ビシッと人差し指を立てて「いったく」──一択と言うリオン王太子の言葉の意味が、その時は解らなかったが、後々ちゃんと聞きただしたところ、その意味はもう『覆すことなく、あの子がいい』という意味だと知った。
「いや、ほんと…それはこっちがマジでごめん。バカ兄貴でごめん。でも、やっぱり私もあいつの嫁にはルエナ様がいい‥…」
思わず顔を覆いながら、シーナは盛大に溜息をつきながらもやはりリオンの『推し』を肯定する。
しかしその未来をちゃんと実現するためにも、ルエナの健康状態と友好関係をさらに向上させ、ふたりがライバルでも蹴落とす相手でもない──いや、あり得ないというぐらいまで周囲の認識を持って行かねばならないのだ。
黒々とした盾のように、白が基調の子爵令嬢を守るアルベール・ラダ・ディーファンが立つ。
正面や左側から覗けば、その暗い色のスーツにはシーナの色が小さな花びらのように挿されているのが見え、前の席に座る高位貴族の子供たちが振り返っては顔を寄せ合った。
「……こういう時は身分制度に感謝するわ。取るに足らない平民上がりの子爵家の娘なんて騎士爵家と同等で十分よ」
「しかし……本来ならば、シオンの……シーナの席は、あのあたりだろう?」
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しかもなるべく彼女から席を離して座っているのだから、学校における『イジメ』に貴賎も世界も関係ないようだ。
「ある意味、新鮮」
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「どうだろうな……家同士の確執が子供にまで及ぶということは……うぅむ……俺はいつも殿下の側にいたからな……」
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ふっとアルベールは遠い目をするが、同じくシーナも遠い目になる。
五歳のあの時──
「ある!あるべーる!!ごめん!ぼくのおよめさんはきみのいもうと…るえなじょういったくで!!」
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