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そのままの勢いでリオン王太子とシーナ嬢は、アルベールと共にディーファン公爵家の屋敷に戻る。
どちらにしろ授業は後ふたつだけしかないし、学園に残っていても王太子としてこなさなければならない仕事があるだけだ。
そしてそれを行うには学園内でもセキュリティ管理のしっかりとされた特別室で、学園内側近に分け与えている報告が必要とくる──が、今のリオンには、彼らと冷静に話せる自信はなかった。
ルエナの体調はだいぶ良くなっていた。
元々はシーナ・ティア・オイン子爵令嬢が屋敷にいることに対して、自室から一歩も出ないという子供じみた反抗抗議を行ったせいで運動量が足りなくなって食事の量も減り、『特別なお茶』に含まれた違法薬物の効果が顕著に効いてしまったのは自業自得である。
それを『病』と言えば言えなくもなかったが、そんな状態にあることは外部に向けては伏せられており、学園に対しては『長期休暇の間にシーナ・ティア・オイン子爵令嬢をディーファン公爵家に留めて礼儀作法を教えていたため、その期間内に行う予定だった王太子妃教育に遅れが生じている。そのためしばらくルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢は学園を休む』としか伝えられていない。
つまり誰かがその情報を曲解して正解に辿り着いたのか、事実を掴んでいてなおかつボカして広めたのか。
問題のひとつはいったい誰がルエナの状態を言いふらそうとしたか、である。
誰も乗らない公爵家の馬車を後に続かせ、王家の馬車にはアルベールが護衛として同席しつつ、リオンとシーナが向かい合わせに乗っていた。
「我が公爵家に勤める者にそのような不届き者はいない……と言いたいが」
「そうね。『公爵家に勤める』というのは本来とても名誉なこと……でも王家にディーファンの血は入っていても、王家から臣下してできたわけではないディーファン公爵家を軽んじる貴族もまだまだいるわね」
アルベールが顰めた顔を俯けるのも仕方がない。
詰めの甘すぎる両親が招いたのは、ディーファン家の威信失墜だけでなく、大切なたったひとりの妹の精神的崩壊──どちらも未遂に終わったのは前世の記憶を持つリオン王太子とシーナ嬢のおかげである。
おそらくこの時点で最も信頼のおける側近であるアルベールの様子を見ながら、リオンも頭を振った。
「……だからこそ、その均衡を保つための婚姻、なんだけど」
「『国より自分』って略奪恋愛の基本なんじゃない?」
「まあ、悪役令嬢ものの鉄板といえば鉄板だな」
「あんたの場合は純粋に『ルエナ様命!』なだけだけどね……」
「まあね。記憶が戻っても戻らなくても……きっとお前には落ちなかったし、ルエナ嬢と婚約破棄はしなかった……と思うんだけどね」
「『たられば』は無しよ。それでも略奪しようって企てる奴なんて、王族と貴族の間に恋愛感情は無いって思って、でも自分とならばきっと違うって妄想して暴走するくせに、そのお相手が婚約者にベタ惚れだなんて認めたくないんでしょ」
「……改めてお伺いしたんですが」
ふたりのやり取りを半分も理解できずに聞いていたアルベールは、姿勢を正してリオンの方へ顔を向けた。
「うん?何だい?」
「リ…リオン殿下は……その……わ、私の妹を……ルエナを、本当に……」
「うん。愛しているよ。たとえ前世の記憶が蘇っても、蘇らなくても」
覚悟を決めた顔つきのアルベールに何を聞かれるかわかっていたが、それを誤魔化すつもりは、リオンにはなかった。
どちらにしろ授業は後ふたつだけしかないし、学園に残っていても王太子としてこなさなければならない仕事があるだけだ。
そしてそれを行うには学園内でもセキュリティ管理のしっかりとされた特別室で、学園内側近に分け与えている報告が必要とくる──が、今のリオンには、彼らと冷静に話せる自信はなかった。
ルエナの体調はだいぶ良くなっていた。
元々はシーナ・ティア・オイン子爵令嬢が屋敷にいることに対して、自室から一歩も出ないという子供じみた反抗抗議を行ったせいで運動量が足りなくなって食事の量も減り、『特別なお茶』に含まれた違法薬物の効果が顕著に効いてしまったのは自業自得である。
それを『病』と言えば言えなくもなかったが、そんな状態にあることは外部に向けては伏せられており、学園に対しては『長期休暇の間にシーナ・ティア・オイン子爵令嬢をディーファン公爵家に留めて礼儀作法を教えていたため、その期間内に行う予定だった王太子妃教育に遅れが生じている。そのためしばらくルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢は学園を休む』としか伝えられていない。
つまり誰かがその情報を曲解して正解に辿り着いたのか、事実を掴んでいてなおかつボカして広めたのか。
問題のひとつはいったい誰がルエナの状態を言いふらそうとしたか、である。
誰も乗らない公爵家の馬車を後に続かせ、王家の馬車にはアルベールが護衛として同席しつつ、リオンとシーナが向かい合わせに乗っていた。
「我が公爵家に勤める者にそのような不届き者はいない……と言いたいが」
「そうね。『公爵家に勤める』というのは本来とても名誉なこと……でも王家にディーファンの血は入っていても、王家から臣下してできたわけではないディーファン公爵家を軽んじる貴族もまだまだいるわね」
アルベールが顰めた顔を俯けるのも仕方がない。
詰めの甘すぎる両親が招いたのは、ディーファン家の威信失墜だけでなく、大切なたったひとりの妹の精神的崩壊──どちらも未遂に終わったのは前世の記憶を持つリオン王太子とシーナ嬢のおかげである。
おそらくこの時点で最も信頼のおける側近であるアルベールの様子を見ながら、リオンも頭を振った。
「……だからこそ、その均衡を保つための婚姻、なんだけど」
「『国より自分』って略奪恋愛の基本なんじゃない?」
「まあ、悪役令嬢ものの鉄板といえば鉄板だな」
「あんたの場合は純粋に『ルエナ様命!』なだけだけどね……」
「まあね。記憶が戻っても戻らなくても……きっとお前には落ちなかったし、ルエナ嬢と婚約破棄はしなかった……と思うんだけどね」
「『たられば』は無しよ。それでも略奪しようって企てる奴なんて、王族と貴族の間に恋愛感情は無いって思って、でも自分とならばきっと違うって妄想して暴走するくせに、そのお相手が婚約者にベタ惚れだなんて認めたくないんでしょ」
「……改めてお伺いしたんですが」
ふたりのやり取りを半分も理解できずに聞いていたアルベールは、姿勢を正してリオンの方へ顔を向けた。
「うん?何だい?」
「リ…リオン殿下は……その……わ、私の妹を……ルエナを、本当に……」
「うん。愛しているよ。たとえ前世の記憶が蘇っても、蘇らなくても」
覚悟を決めた顔つきのアルベールに何を聞かれるかわかっていたが、それを誤魔化すつもりは、リオンにはなかった。
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