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不穏
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可愛らしい見た目とは裏腹に剣呑な目付きでアルベールを見てニヤつくルイフェンは、ほとんどその目付きのまま王太子の方にも視線を貼り付ける。
従うべき相手に対してかなり喧嘩腰で挑む態度だが、リオンが呆れて放置している理由は、リオンやシーナと同い年である彼の兄だった。
リオンの学園内側近には兄であるベレフォン・ジュスト・ダンビューラ伯爵令息がいるが、彼は自分の弟を諫めることなく、今も側近の中で最後尾に控えていた。
同じ兄弟でも覇気のない兄を蔑む者は多く、『王太子を立てて、でも足りないところをさりげなく補う気配りのあなたって素敵』とシーナ嬢に煽てられながらだんだんと自信をつけて、伯爵次期当主として恋愛バトルに打ち勝ってヒロインを得るという立場だが──小説やゲームどおりのヒロインではないシーナとしては、自分が尻を叩かないと立てない男に興味は無い。
それでもやはり声を掛けてほしそうにチラチラとこちらを窺っている様子を見ると、どうにかシーナに弟の暴走を止めてもらい、その上で「優しすぎるのはダメよ……でも、そんな所も素敵」とか声を掛けてもらいたいんだろうなと予想できてしまう。
むろん毛ほどもそんなことを思ってはおらず、ゲーム内の進行上避けられないイベントならともかく、現実では特に攻略したいと思っているわけではないので絡むことはしない。
下手に関わって人間関係がややこしくなることは、ルエナとリオンを幸せにくっつけたいシーナにしてみれば迷惑この上ないからだ。
(だいたい兄弟攻略って逆ハールートなんだよね……そうするとリオンにも口説かれないとならな……)
「ウェッ」
思わず小声でえづくと、アルベールが素早く近寄ってシーナの背中に大きな手を当てて支えてくれた。
「……大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっと嫌な想像して……」
「ちょっと!何してんのさっ?!シーナねえさまに気易く触んなっ!!」
王太子に対して下から睨みつけることに集中していたために、ライバルを制することができなかったルイフォンが割って入ろうとしたが、シーナはスッとアルベールの後ろに隠れるように一歩下がり、逆に盾になるかのようにアルベールの大きな身体がシーナを隠す。
どう見てもそれは寄り添うふたりを邪魔するようにしか見えないのに、ルイフォンは自分が避けられたことを受け入れられず、さらに近付こうとした。
「離れろって言ってんだろ?!シーナねえさまに言いがかりをつけて、屋敷に連れ込んだくせにっ!お前の妹の方が性悪だろーがっ!!」
「………あぁん?」
その地を這うような低い声はアルベールではなく、その後ろ──シーナ・ティア・オイン、いや『詩音』が据わった目付きでルイフォンを睨みつけながら発した。
従うべき相手に対してかなり喧嘩腰で挑む態度だが、リオンが呆れて放置している理由は、リオンやシーナと同い年である彼の兄だった。
リオンの学園内側近には兄であるベレフォン・ジュスト・ダンビューラ伯爵令息がいるが、彼は自分の弟を諫めることなく、今も側近の中で最後尾に控えていた。
同じ兄弟でも覇気のない兄を蔑む者は多く、『王太子を立てて、でも足りないところをさりげなく補う気配りのあなたって素敵』とシーナ嬢に煽てられながらだんだんと自信をつけて、伯爵次期当主として恋愛バトルに打ち勝ってヒロインを得るという立場だが──小説やゲームどおりのヒロインではないシーナとしては、自分が尻を叩かないと立てない男に興味は無い。
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下手に関わって人間関係がややこしくなることは、ルエナとリオンを幸せにくっつけたいシーナにしてみれば迷惑この上ないからだ。
(だいたい兄弟攻略って逆ハールートなんだよね……そうするとリオンにも口説かれないとならな……)
「ウェッ」
思わず小声でえづくと、アルベールが素早く近寄ってシーナの背中に大きな手を当てて支えてくれた。
「……大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっと嫌な想像して……」
「ちょっと!何してんのさっ?!シーナねえさまに気易く触んなっ!!」
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「………あぁん?」
その地を這うような低い声はアルベールではなく、その後ろ──シーナ・ティア・オイン、いや『詩音』が据わった目付きでルイフォンを睨みつけながら発した。
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