婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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忍耐

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学園内では特にこれといったことは起きず、まさしく平穏な日々が続いていた。
「……姑息ね」
「まったくだ」
本命はわかっているが、手を出してくれなければ断罪することもできない。
「間に入ってるのがひとりやふたりなら…ねぇ……」
「使用人を使ったり、手紙を託したり、領地経由で回りくどくしたり、隠密ごっこをしてみたり……そんなに旨味をくれる相手なのかなぁ?」
「旨味はあんたでしょ?よっぽど王太子妃って暇だと思われてるんじゃないの?」
「グッ……そうだな……俺だって実際立太子した後から受けた教育で『ここからは王太子妃の学ばれることです』とか言われて分厚い本やらなんやらが積まれているのを見せてもらうまで、貴族の奥さんの仕事ってお茶会するほかは使用人に偉そうに命令するだけだと思ってたんだから……」
「それはアタシもだわ。小説にはなかなか書かれてないっていうか、そのお茶会で嫌味の言い合いやそれを華麗に躱して悪役令嬢ライバルをやりこめるとか……そんなんばっかだもんね」
「ああ、そういやそうだったな。しかもイマドキの奴はちゃんとしてたから、『正論を無邪気さでぶった切る』っていうんじゃなくて、ちゃんと敵が理不尽なことを言ってくれるっていう」
「それな」
シーナお手製のサンドイッチを食べながら、リオン王太子は作り手とここ最近のことを話している。
少しずつ切り取られた部分を見て、リオンはニヤッと笑った。
「毒味はアルベール?他の奴らにも食べさせてやればいいのに」
「本当にねぇ……どうせ朝、切り分ける時に同じ物食べたんだから」
「何だ、朝から愛妻弁当かよ……お前ら、マジでくっついちゃえよ」
「クッ……アルベールが攻略対象だったら、たぶんソッコーで攻めてるわよ!落しまくってるわよ!でも残念ながらアルベールはアタシを憎む役なのよね……本来は公爵家没落の要因なんだもの」
「攻略対象全員から逃げ回ってる言う奴のセリフかよ」
「うっせぃ」
どう見てもアルベールはシーナを大事にしているのだが、シーナの方は『詩音』としてゲームや小説を尊重するあまり、どうにも素直に状況を受け入れる気はないらしい。
かといって『攻略対象』の誰かとくっつく気もないらしいが──
「だいたいあいつら、王宮までくっついていってアルベールのこと無視するんでしょ?小っちゃい虐めやるような小っちゃい男って、絶対モノも小さいと思うんだよね!見たことないけど!」
「見てたら軽蔑するわ、俺……」
一応は会話の聞こえない位置で立たせている学園内での側近たちは、リオン王太子に対してシーナ嬢が失礼なことをしないかと監視するより、シーナ嬢の一挙一動を舐めるように見つめている。
チラリとその様子を盗み見て、シーナは溜め息をついた。
「いやぁ、マジ気持ち悪い……これがいわゆる物語補正?今もしここで誰か近付いてアタシたちのどっちかに危害を加えようとしても動けるのかしら?」
「たぶんお前の方を助けて、俺は見殺しだろうな……」
「それって首チョンパものよね?まあ……こうやって過ごしてても何もないから、きっとルエナ様待ちなんだとは思うけど」
そうなのだ──シーナに対して何も危害が加えられていないのは明らかにルエナが学園にいないせいで、つまりやはりシーナを排除しようとしていたのはディーファン公爵令嬢で間違いないという印象操作であろうことは当事者であるふたりにはわかっていたが、いわゆるモブキャラ扱いの貴族子息たちの陰口は収まり切ってはいない。
「こんな状態でルエナを学園には戻したくないな……」
「かといってこのまま…っていうわけにもいかないし……」
簡単に切られてしまう尻尾を何本も掴むより、確実に本体にくっついている尻尾しょうこを手に入れるには、まだまだ忍耐比べが必要なようである。


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