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餌付
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長期休暇の大半は、ルエナが幼い頃から飲まされ続けていたお茶に混ぜられた有害な物を、ひたすら排出するために使われた。
そして新学期が始まったがルエナはまだそのまま公爵邸に留まり、王宮から派遣される教師たちから王太子妃教育と学園の授業の補完が行われることに決まり、シーナ嬢はまだディーファン公爵家預かりで貴族学園に通うこととなった。
ルエナが反対するかと思いきや、落ち着いた様子で王宮からやってきた王太子代理人からの言葉に頷き、この件に関しては滞りなく完了する。
娘の態度の軟化と落ち着き方に両親は驚いたようだったが、ずっと側で見守っていたポリエットはさもあらんとひとり秘かに納得した。
ルエナは今やシーナによって『餌付けされた』状態にある。
シーナが反則技的な『前世での知識』を駆使して作った回復食は、無理やり食べさせられる糊状お粥よりも、しっかりとルエナの気持ちに響いて体力も気力も満たしていった。
薄味のスープはだんだんと量を増やされ、あまり動くことができなかったルエナが少し不満そうな表情で「もう少し甘い物も食べたい」と言い出したのを聞いた侍女が、ルエナお嬢様がまた我儘を言い出したと告げ口した時、シーナが示した反応は誰も想像していないもので──
「よっしゃぁぁぁぁ───っ!!甘い物食べたい人が死にたがるわけはないわ!我儘?上等よ!あのクソ忌々しいお茶を欲しがるより百倍もマシよ!!」
そう雄叫びを上げた後に手早く用意したのは、何度も作っては甘みを調整した例の『リンゴの蜂蜜煮』である。
公爵邸の厨房で公爵家の食材を使うことを躊躇していたシーナ嬢は、いいスポンサーを見つけた。
「はぁっ?!回復のお祝いに花ぁ?バッカじゃないの?!アル、あいつに言ってくれる?『庭園で有名なディーファン公爵家の令嬢に花を贈る阿呆はどこ?アタシが今ルエナ様の専属料理人やってるんだから王家の財産とコネでお砂糖とか高価な調味料をちょうだい!』って」
「ウッ……そ、その……あなたの伝言を伝えるのはやぶさかではないのだが……さ、さすがにそのままというわけには……書面にすることは……?」
「それはダメ。下手に文書に残して、後々上げ足とられないようにした方がいいもの……とはいえ……ああ、そっか!」
何かを思いついたのかシーナはクロッキー用の薄めの紙を利用し──これもこの世界ではかなり難しい技術で造られた高級品であるが──リオン王太子宛ての手紙という名のカツアゲを日本語で書き、おかしな形に折りたたんだ。
「この畳み方はアタシとリオンしか知らないから、このまま渡してくれればいいよ。渡す時に『ルエナ様に美味しいものを食べてもらって元気になってもらいたいから、なるはやで!』と付け加えて。そう言えばすぐにこの手紙を見て手配してくれるはずだから」
そしてその手紙をこっそり王太子に渡し、ついでにシーナからの追伸を口頭でそっくりそのまま伝えた結果──貴重な白砂糖を始め、様々な香辛料が大量に、そして新鮮な野菜や果物がシーナ嬢宛てに届いた。
ついでにまたアルベールはリオン王太子から『スマソ』とだけ書かれた手紙と『ルエナ嬢のために作っているのはリンゴの蜂蜜煮らしいね?だったら紅玉によく似た品種があるから、それも贈るよ』という口頭の方が長いという不思議な言伝を預かったのである。
そして新学期が始まったがルエナはまだそのまま公爵邸に留まり、王宮から派遣される教師たちから王太子妃教育と学園の授業の補完が行われることに決まり、シーナ嬢はまだディーファン公爵家預かりで貴族学園に通うこととなった。
ルエナが反対するかと思いきや、落ち着いた様子で王宮からやってきた王太子代理人からの言葉に頷き、この件に関しては滞りなく完了する。
娘の態度の軟化と落ち着き方に両親は驚いたようだったが、ずっと側で見守っていたポリエットはさもあらんとひとり秘かに納得した。
ルエナは今やシーナによって『餌付けされた』状態にある。
シーナが反則技的な『前世での知識』を駆使して作った回復食は、無理やり食べさせられる糊状お粥よりも、しっかりとルエナの気持ちに響いて体力も気力も満たしていった。
薄味のスープはだんだんと量を増やされ、あまり動くことができなかったルエナが少し不満そうな表情で「もう少し甘い物も食べたい」と言い出したのを聞いた侍女が、ルエナお嬢様がまた我儘を言い出したと告げ口した時、シーナが示した反応は誰も想像していないもので──
「よっしゃぁぁぁぁ───っ!!甘い物食べたい人が死にたがるわけはないわ!我儘?上等よ!あのクソ忌々しいお茶を欲しがるより百倍もマシよ!!」
そう雄叫びを上げた後に手早く用意したのは、何度も作っては甘みを調整した例の『リンゴの蜂蜜煮』である。
公爵邸の厨房で公爵家の食材を使うことを躊躇していたシーナ嬢は、いいスポンサーを見つけた。
「はぁっ?!回復のお祝いに花ぁ?バッカじゃないの?!アル、あいつに言ってくれる?『庭園で有名なディーファン公爵家の令嬢に花を贈る阿呆はどこ?アタシが今ルエナ様の専属料理人やってるんだから王家の財産とコネでお砂糖とか高価な調味料をちょうだい!』って」
「ウッ……そ、その……あなたの伝言を伝えるのはやぶさかではないのだが……さ、さすがにそのままというわけには……書面にすることは……?」
「それはダメ。下手に文書に残して、後々上げ足とられないようにした方がいいもの……とはいえ……ああ、そっか!」
何かを思いついたのかシーナはクロッキー用の薄めの紙を利用し──これもこの世界ではかなり難しい技術で造られた高級品であるが──リオン王太子宛ての手紙という名のカツアゲを日本語で書き、おかしな形に折りたたんだ。
「この畳み方はアタシとリオンしか知らないから、このまま渡してくれればいいよ。渡す時に『ルエナ様に美味しいものを食べてもらって元気になってもらいたいから、なるはやで!』と付け加えて。そう言えばすぐにこの手紙を見て手配してくれるはずだから」
そしてその手紙をこっそり王太子に渡し、ついでにシーナからの追伸を口頭でそっくりそのまま伝えた結果──貴重な白砂糖を始め、様々な香辛料が大量に、そして新鮮な野菜や果物がシーナ嬢宛てに届いた。
ついでにまたアルベールはリオン王太子から『スマソ』とだけ書かれた手紙と『ルエナ嬢のために作っているのはリンゴの蜂蜜煮らしいね?だったら紅玉によく似た品種があるから、それも贈るよ』という口頭の方が長いという不思議な言伝を預かったのである。
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