婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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初見

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──そんな子、いたかしら?

思い出す素振りをすることさえ困難なほど、その言葉はルエナを激しく動揺させた。

いた。
必ず。
初めて会った時、訳の分からないことを叫ばれたが、そんな強烈な記憶を残した男の子──

「レアスチール!てか、ありえねぇ!生ルエナ!!」

ゴツンとものすごい痛そうな音がして、男の子はゲンコツで殴られた頭を抱えて蹲った。
帽子をかぶっていたが、その裾から見えたのはくすんだ灰色っぽいような黒っぽいような短い髪の毛。
目は隠れるように長く、顔がどんな風だったか覚えていないが、小柄なその子にジッと見られるのは居心地が悪かった。
そういえばあの子はずいぶん大きなスケッチブックを大人のように構え、父親と一緒に絵を描いていた──てっきり大人の真似をして小遣いでもせびるようなあざとい真似をしていたのかと思ったのはいつだったか。
いや、初めはあんな小さな子が大人のような大きな本をもらい、そこで指を構えているのを不思議に思って見ていただけだった。
どうしてあの時に声をかけなかったのか──
「あの時何故男の子の格好をしていたのかは存じませんが、お嬢様はそのせいでお声をかけるのを躊躇われて。お友達になれればまた今とは違う関係性になれていたことでしょう」
「そう……かしら……」
「ええ!だからこそ次期様は、男装せざるを得なかったシーナ様にお手を差し出されたのでしょう」
「えっ?!」
「弟君もいれば…と常々、ご両親におねだりされていましたんですよ?お嬢様があまりに可愛いから、弟もきっと可愛いだろう…と。『ぼくがいもうととおとうとをまもるから、あかちゃんをちょうだい!』と無理を仰られて……」
「む……り……?」
「……奥様がお嬢様をご出産後、王都中で流行った病に罹られて……ええ、平民ではかなりの人が治療することも叶わずに亡くなってしまったあの大流感です……奥様も大変お悪くて命が危ぶまれるほどでした。そのため、三人目のお子様は望めない……と」
ルエナはほぼ覚えていないが、兄と一緒にある別荘地へ行かされたことがあった。
どこかの伯爵の──

「ずいぶん前にツェリー伯爵家の屋敷に避暑に行っただろう?たまたまシーナ嬢も父君と訪れたことがあるらしい。記憶をもとに描いてくれたんだ。それと……」

そうだ──それはとても素敵な湖へ行ける、静かな別荘だった。
父も母もいなかったが、ポリエットが一緒にいてくれたおかげでアルベールもルエナもまったく恐怖を覚えず、ただ楽しく父や母が迎えに来てくれるのを待っていただけである。
「覚えておりますよ。次期様があの小さい男の子が……いえ、シーナ様、でしたわね……混乱してしまって。シーナ様がお嬢様を真剣に見つめ、何枚も何枚もスケッチされているのを見て、もっと見せてほしいと話しかけていらっしゃいましたね。そのために旦那様に彼……いえ、彼女にそのために大量のスケッチブックを届けてほしいとお願いされていましたのよ?」
ルエナが記憶の細い糸を手繰り寄せていると、ポリエットはさらに懐かしそうにシーナが屋敷に来た時のことを話し続ける。


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