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呼称
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そうして集中していて、シーナがご機嫌でまた同じ椅子に座り、今度はアルベールの素振りを見つめているのに気が付いたのはずいぶん後だった。
「うぉっ!いっ…いつの間にっ……」
「ふっふふ~ん♪アルが剣技できるなんて、知らなかったなぁ。昔はたまにリオンと模擬戦していたけど、学園に上がってからは全然やらなくなっちゃってさ。剣舞と違って、すっごい怖い顔してやるんだね!」
「……まぁ……一応『敵』を想定してやるものだから……剣舞?シーナ嬢は見たことがあるのか?」
「ふふっ……やっぱり『嬢』って付けられるの、なんか変だよね。貴族って幼なじみでもあまり親しくなかったら敬称をつけるって言うから、アタシはアルとそんなに親しくないってこと?」
「いっ、いやっ……そ、そんな……」
思わず『テレビで中国雑技団の』と言いそうになったが、それはそれでまたアルベールを悩ませそうだと気付き、シーナは『シオン』としてブゥと唇を尖らせる。
逆にその仕草でアルベールを惑わせていることに気が付かないわけではないが、『テレビ』だの『中国』だの知らない単語を説明──は求められないが、それでもしょんぼりと『またリオン殿下としか通じない単語が出てきた…』としょげられるよりずっといい。
「なーんてねっ!ま、いいよ。それよりルエナ様、だいぶ顔色良くなったみたいね?ばあやさんの……えぇと……」
「ば、ばあや……?」
「違う?!ばあやって言わないの?乳母さんのこと……」
「あっ、ああ……乳母か……そうだな、言わないな。たいてい使用人は皆呼び捨てだから……」
「そっ、そっかぁ……そう、だよね……ロッテンマイヤーさんもクララには『ロッテンマイヤー』って呼び捨てにされてたし……アレ?呼び捨ては翻訳した本の方だけ?アニメは『さん』づけしてたっけ?」
「ロッテンマイヤー?クララ?シーナじょ……シーナには、俺の知らない知り合いがけっこういるんだな」
「あ、あはは……」
ブツブツと呟いた言葉の中身がまたアニメや児童文学の話だとは言えず、とりあえず笑って誤魔化す。
「彼女はポリー……ポリエットだ。小さい頃はちゃんと言えずに俺もルエナも『ポリー』と呼んでいたから、ついそう呼びそうになってしまう」
「……その割には、アルはアタシのこと『シオン』とは呼ばないよね?」
「いっ、いやっ……そ、それは……やっぱり仮名だから……」
「う……」
シーナにとっては確かにルエナと合う前の四年間は『シーナ』だったが、記憶を取り戻した後でもそうあるのは難しかった。
できればいろんな転生小説であるように、前世の『名前』まで忘れたままでいたかったのに、まさか凛音がリオンという名前のままで転生しており、しかも関わり合いになってしまっては『双子だったのに狡い!』という気持ちと『詩音でいたい』という気持ちが募ってしまい、ついアルベールも加えた三人でいる時は『シオン』と呼んでほしいと頼んだのである。
今はリオンが側にいないしいつ誰が聞いているかわからないから…と、アルベールはその呼び方をしなくなってしまった。
「うぉっ!いっ…いつの間にっ……」
「ふっふふ~ん♪アルが剣技できるなんて、知らなかったなぁ。昔はたまにリオンと模擬戦していたけど、学園に上がってからは全然やらなくなっちゃってさ。剣舞と違って、すっごい怖い顔してやるんだね!」
「……まぁ……一応『敵』を想定してやるものだから……剣舞?シーナ嬢は見たことがあるのか?」
「ふふっ……やっぱり『嬢』って付けられるの、なんか変だよね。貴族って幼なじみでもあまり親しくなかったら敬称をつけるって言うから、アタシはアルとそんなに親しくないってこと?」
「いっ、いやっ……そ、そんな……」
思わず『テレビで中国雑技団の』と言いそうになったが、それはそれでまたアルベールを悩ませそうだと気付き、シーナは『シオン』としてブゥと唇を尖らせる。
逆にその仕草でアルベールを惑わせていることに気が付かないわけではないが、『テレビ』だの『中国』だの知らない単語を説明──は求められないが、それでもしょんぼりと『またリオン殿下としか通じない単語が出てきた…』としょげられるよりずっといい。
「なーんてねっ!ま、いいよ。それよりルエナ様、だいぶ顔色良くなったみたいね?ばあやさんの……えぇと……」
「ば、ばあや……?」
「違う?!ばあやって言わないの?乳母さんのこと……」
「あっ、ああ……乳母か……そうだな、言わないな。たいてい使用人は皆呼び捨てだから……」
「そっ、そっかぁ……そう、だよね……ロッテンマイヤーさんもクララには『ロッテンマイヤー』って呼び捨てにされてたし……アレ?呼び捨ては翻訳した本の方だけ?アニメは『さん』づけしてたっけ?」
「ロッテンマイヤー?クララ?シーナじょ……シーナには、俺の知らない知り合いがけっこういるんだな」
「あ、あはは……」
ブツブツと呟いた言葉の中身がまたアニメや児童文学の話だとは言えず、とりあえず笑って誤魔化す。
「彼女はポリー……ポリエットだ。小さい頃はちゃんと言えずに俺もルエナも『ポリー』と呼んでいたから、ついそう呼びそうになってしまう」
「……その割には、アルはアタシのこと『シオン』とは呼ばないよね?」
「いっ、いやっ……そ、それは……やっぱり仮名だから……」
「う……」
シーナにとっては確かにルエナと合う前の四年間は『シーナ』だったが、記憶を取り戻した後でもそうあるのは難しかった。
できればいろんな転生小説であるように、前世の『名前』まで忘れたままでいたかったのに、まさか凛音がリオンという名前のままで転生しており、しかも関わり合いになってしまっては『双子だったのに狡い!』という気持ちと『詩音でいたい』という気持ちが募ってしまい、ついアルベールも加えた三人でいる時は『シオン』と呼んでほしいと頼んだのである。
今はリオンが側にいないしいつ誰が聞いているかわからないから…と、アルベールはその呼び方をしなくなってしまった。
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