婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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看過

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もっともアルベールが心配するような気持ちはリオンにはまったくなく、たとえ今は血が繋がっていないとしてもシオンに何かしようというつもりはさらさらない。
それを理解してもらうのに時間がかかったのは、もうその頃にはアルベールがシオンに対して特別な感情があったからである。
『可愛い子は皆狙っている』という視野の狭さは恋する者特有かもしれないが、アルベールのそれは真綿で五重ぐらいに包み込み、下手をしたら監禁までしかねないぐらいの強さであったが、それ以上に「嫌われたくない」という思いが強すぎてシオンの前では『他の人より親切な男の子』という矛盾した態度になってしまった。

おかげでシオンはそのまま「しばらく会えないかもしれない」とい言葉にある裏側をまったく読み取らずに王太子宮を離れ、ルエナはそのことを知らずにようやく三日後にあの『平民の男の子』に謝りたいと申し出てきたのである。
残念ながらそれは叶わず、では次に絵の仕上がりの時に公爵邸で行えばよいと諭されて、残りの滞在期間をルエナは穏やかに過ごすことができた。


しかし──ルエナが公爵邸に戻り、しばらくして休暇をもらっていた女家庭教師も戻ると、状況はまた後退した。
しばらくおかしな言動がないかと気を付けていた公爵夫妻は、半月、一ヶ月とルエナ自身に変化がないために警戒を緩めてしまったのが悪かったのだろう。
一週間に二度ほど女家庭教師が自分でお茶を用意するのを見逃し、またルエナがその味を思い出してしまったのがきっかけで、両親の前では大人しく、そして女家庭教師の前では侍女たちに対して高圧的な態度を強要される、二重生活に戻ってしまった。
しかも九歳になったばかりの少女が考える『高圧的な態度』というのは、高位貴族の夫人たちが腹黒く探り合うようなねちっこい言い合いに比べれば言葉も柔らかく、また見た目の可愛らしさも相まって『ご両親に内緒で少し大人びた態度を取りたい公女様』と捉えられ、侯爵家以下のご令嬢であった侍女たちもあまり危機感を覚えなかったのである。
唯一王太子宮でルエナを助けようと侍医を呼びに走った侍女は、逆にその功績のために公爵夫人付きの侍女へと格上げされてしまったのも、見逃す要因となったのは間違いない。
つまりあの騒ぎを結局のところ「大袈裟になってしまったに過ぎない」と、誰もが思ったのだ。


約一ヶ月後に絵を仕上げたシーナが父と共にディーファン家を訪れた時、まだルエナはまともだった。
ほんのわずかに薬の入ったお茶を飲まされつつはあったが、その影響を両親の前で晒してしまうほど侵されてはいなかった。
しかしそれがさらに二ヶ月──半年──そして一年と一ヶ月。

とうとうバレた。
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