婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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夜更

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原因は──と考えると、やはりルエナの言い放った台詞の中に会った『女家庭教師』だろう。
しかし王族といえど、公爵家で直接雇用されている者に対して口出しすることはできない。
ましてやただの王太子──しかも『結婚した後にメリットがある』という程度の少年だ。
これが成人し、確実に次期王になるというのならば婚約者の教育方針について意見が言えるかもしれないが、その時にはルエナも成人しているのだから意味がない。
「……かと言って、僕が言ったとしても」
「そうなんだ」
「うん。『淑女教育』というものは、当主になるための勉強とはまったく違う…らしい。僕もまだ普通の学問だけだし、来年十一歳の誕生日を迎えたら二年間領地に行って領主としての勉強をする……ぐらいしか教えてもらっていない」
「そっかぁ……じゃあ、次にアルに会えるのって、十三歳?」
「そうだね……社交シーズンには帰ってこれるのかな?でも、父上も一緒に領地に行くから、王都の屋敷の方は母上が取り仕切るんだ。だからひょっとしたらルエナにもシーナ…じゃない、シオンにも会えるのは貴族学園に入園する前ぐらいかな?」
今世の名前ではなく前世とよく似た発音で名前を呼ばれ、そんな場合ではないような雰囲気の中、シーナがふふっと小さく笑うと、アルベールは顔を真っ赤にして息が詰まったような顔をした。
今は少年の格好をして髪が短く薄汚されてはいても、その柔らかな顔つきはやはり『少女』である。
実はレオンが身分違いだというのに自分の私室にこうして二人を招いたというのは、秘かにシオンに想いを寄せているらしいアルベールと会わせたいという気持ちがあったからだ。
やはり思い出しても胸の悪くなる──次兄の蛮行を塗り潰し、こうして自分の後を追うように転生してしまった双子の妹には、今度こそ幸せな恋愛と結婚と、そして血が繋がらないにしてもシオンの子供を見たいという気持ちが強い。
ふたりが看護系の学校に通信教育でも関わったというのは、それで国家資格が取れるというメリットの他、いずれ詩音が家の外に出れるようになった時、子供に関わる仕事ができたらいいなと思っていた部分もあるのだが──それは莉音の勝手な願いであるとも自覚していた。
それにアルベールは次兄と違って、けっしてシオンに無理やり手を出そうとはしない。
お互いまだ九歳と十歳という幼さもあるかもしれないが、それでもアルベールのその態度はシオンを尊重し、怯えさせないと決めているのが好ましいと思っている。


「どうしてシオンを男の子の格好にしているのですか?」
「……アルベール様は、シオンが女の子だとでも?」
「はい。とてもかわいいのに……」
「……『可愛いから』こそ…です、アルベール様。残念ながら、私とシオン…いえ、この子の本当の名はシーナと申します。シーナの住む場所は、幼く可愛い女の子が安全に暮らせる場所とは言い難いのです」
「ではっ……それならば、安全な場所にっ」
「それはできません」
「な、なぜ?!」
「私たちが住んでいる場所は、シーナの母と祖母が住んでいた場所です。命がけで生きていた家です。その思い出を奪うことは……それに、その家にはシーナの落書きがいっぱいあるんです。ですから……」
シーナの父である男が本当はオイン子爵家の次男であり、家名を捨ててまで貧民と言われる身分の女性と婚姻して産まれたのがシーナであることは、誰にも言わないでほしいとシーナの父は幼いアルベールに頼んだ。
しかし万が一、自分の身に何かあった場合はシーナをオイン家に託すことをディーファン公爵には話してあることを、次期当主としてアルベールの心の内に留めておいてほしいとも。
それはアルベールをただの幼い少年としてではなく、未来ある公爵と認めたも同然の告白と、アルベールは理解が及ばない部分がありながらも強く刻んだ。


そんな会話を六歳の頃にしたのを思い出すアルベールは、けっして汚れた髪を触らせず、浴室ではただ自分の身体を拭うだけで綺麗な寝具に横たわることすらせずに床に蹲って休むシーナと、豪華なベッドで眠る王子の間に自分用に用意してもらったエキストラベッドの上に座り、けっして王子が不埒な真似をしないようにと見張っていたのである。


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