婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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報告

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リオンは執務室でイライラしながら、アルベールの報告を聞いていた。
事は未来の王太子妃に関わるのだが、ここにきて面倒なことを言い出す輩が出始めたからである。
どうやって嗅ぎつけたのか見当はつくが、他の公爵家からルエナとの婚約継続について『承諾しがたし』という声があると、父王の執事から伝言されてきた。
「クソッ……攻略時にルエナとの婚約破棄を考えろというシチュエーションなんかなかったぞ……」
当たり前である。
あくまでもゲームは貴族学園内での恋愛模様をなぞり、イベントとして王都内での出会いや再会、そしてデートというぐあいにしか描かれない。
王宮内での王太子の苦悩など、制作側にとっては無駄シチュとして省かれて当然だろう。
むしろそこにヒロインとしてシーナが『王宮メイド』という職で勤務しているというならば、そんな慰めシーンもできたかもしれないが……
「そ、そうか……王宮メイド……気付かなかった……パロで出したら十八禁バージョンで……」
つい現実逃避気味に詩音との前世の共同作業に思考が飛んだが、それよりも目の前の問題であった。
「……何故か学園内でシーナ嬢が傷物にされたことになっており、その主犯格が我が妹である……と訴えられています」
「それについては『認識違いも甚だしい』と父上も一蹴されたよ。詩音は黙ってヤラれるような器じゃなかったし、当然やり返して失神させたし。その犯人も引き渡したが、橋渡しが伝言ゲームみたいに五人も巻き込んだっていうのもわかっているし」
「そもそも手紙がすべて燃やされた時点で、本人たちに何かしら後ろ暗い所があると告白しているようなものですからね」
「まさかこちら側に『証拠取得』なんて手段を取られるとは思っていなかったからだろう?しかもそれで薬の出所まで抑えているというのに……情報を得るのが遅すぎるんだよ」
通常の貴族同士のやり取りでは、まず先触れが『お伺いしてもいいですか?』とか『メッセージがあります』と人や手紙を介してご機嫌伺いを行う。
そこから速やかに会う──のではなく、日時のすり合わせ、場所の決定、もてなしの準備と要らないことまで含めて最短一週間かけてやり取りをするのだ。
緊急時ですら先触れを出し、訪問先の主の都合がつくまで待たされ、けっきょく手遅れになることだってある。
「最善を尽くしたが、助からなかった」
そういって安い診療費しかもらえないような患者を請け負うことを嫌う医者は、高位貴族以下の使いを待たせるために優雅に食後のお茶を楽しんでから腰を上げるという実しやかな噂まであった。
「……そして、それを隠匿するためにディーファン公爵夫妻がシーナ嬢を攫い、我が屋敷に監禁して暴行しているという噂もある…と」
「はぁっ?!」
「言ってきた方もいたので、逆に証拠を出せと法政省の大臣がおっしゃって下さったそうです」
「……だよね。だいたいシオン……じゃない、シーナの面倒をルエナ嬢に看ろと押しつけたのは俺だし」
「面倒など……」
「いや、あの荷物はけっこうな『面倒』だと思うけど?」
シーナのスケッチブックだけでなくすべての絵画作品は小さいとはいっても一軒家の地下室一杯にしまわれていたのだ。
とうていシーナに与えられた部屋だけでは足りず、公爵家に持ち込めなかった他の物は王太子が私用として使う別邸に厳重に収められている。
ふとそのことに思い当たり、リオンはアルベールに提案をした。


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