婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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決心

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シーナの言う『貧乏人』と『知恵袋』という意味はよくわからなかったが、どうやら貧民街に住んでいる者たちは、自分たちの経験や助け合いで何とか生きていることはわかった。
しかし──と、アルベールは考え込む。
『野草を食べて生き延びるのが普通』というのは、潤沢な衣食住が確約されている高位貴族育ちのアルベールには全く想像できない。
いうなれば王宮内で王太子の仕事の手伝いをするといった補助的な役割しかない『王太子の側近』という立場では、あるじについて戦場にでも出て食糧でもなくならない限り、『野草を食べてでも生き残る』ということは経験しようがないのだ。
「……うん、そうだよね。アタシも実際経験するとは思っていなかったし、経験して『ああ、あれは人生を豊かにしてくれる経験だった』とは言い難い。どちらかといえば、前世ではアタシとリオンは公爵家みたいな生活をしていたから……ただ、知ったことで、せめてこの国からだけでも『貧民街』という街が無くなったらいいんじゃないかっていう考えは持てた」
「……俺は、『貧民街』があることも、そこに住んでいる者たちがいることも知っている。その日その日の食事について知っているわけではないが、確かに質のいい仕事についているとは言い難いことや、その……罪人たちも流れてそこに住み着くことも……犯罪の温床になっていることも」
「そして、ルエナ様の言うように『貧乏人がそんな底辺にいるのは、自分たちが努力せず、そこにいるのが当然な自堕落な生活を送っているからだ』と思っていたわけね……そう言われても仕方のない奴もいるのは確かだけどね」
そう言われたアルベールは、自分が妹に対して激怒した理由の一つは、まさしくルエナ自身が発した言葉が自分の中にある物だと自覚したせいだったのかもしれないと思いあたる。
「でも……わざわざその底辺から這い上がれないようにと、平民でも貴族様でも雇った者を陥れて正当な報酬を与えないのも本当。だって『汚れ仕事をする人たちがいなくなったら困るのは自分たちだ』と、ちゃんと理解している大人たちだもの」
「……それは、すまない」
「アルベールに謝ってもらってもね……言葉だけでは変わらない。だからリオンと一緒に『スクラップ・アンド・ビルド』を頑張ってほしいの!ね?」
「す、すく……?」
アルベールにはまた新しい言葉だ。
「古い建物を壊して新しい施設を作る…っていう前世の言葉のひとつ。別の意味で『古い慣習を打ち破って、新しいことを始めよう』ってね。アタシもやらなきゃね~……まずは古いルエナ様を壊して、新しい『本当のルエナ様』を外に出さないとね」
パキッパキッと淑女らしくなく指を鳴らし、シーナは自分への攻撃とルエナのせいにするための噂を流している犯人捜しはアルベールとリオンに任せることとし、自分にできることは何かと計画を立て始めた。

大好きな『ルエナ・リル・ディーファン』を、今の異常な状態から救い出すために。


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