婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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述懐

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フフッと笑ってシーナはまた別のページをめくる。
それはルエナには見覚えのない絵。
このサンルームで転寝をする今よりずっと幼いルエナが、粉っぽい淡い色で可愛らしく色づいている。
「これ……は……?」
自分の寝顔を見ることなどできないのに、そこにあるというのが不思議でならない。
「凄いな……」
「へへっ!これねぇ!十歳の時のルエナ様よ!お父様が……あっ!本当の方のね?お父様が私の準備するのに時間かかっちゃって……こちらにお邪魔するのに時間がオーバー……えぇと、過ぎちゃって……」
「え?ここに、来る……?」
「え?うん?そう、来ましたの。そうしたらルエナ様が暖かいこのサンルームで待ちくたびれて寝てしまっていて……あんまり可愛かったもんだから、ついお父様に起こす前に描かせて!ってお願いした絵ですわ!」
「来る……って……何故……いつ……」
十歳の頃といえば、それまで何人も毎月のように画家がきていたのがパッタリと現れなくなり、年に二度、ルエナとアルベールの誕生日にだけ、肖像画を描く画家だけがやってくるようになっていた。
それは女性ではなく父と同じ歳くらいの男性でルエナは少し怖く思っていたが、いつも小さな男の子を連れて──
「でも、あれは……あの子は……男の子……だった…わ……?」
「あ~……それは」
クシャッと短い髪をかき上げ、シーナは少し悲しそうに笑って告白した。
「ほら……アタシって、少し変わった髪色してるでしょ?父親も元々貴族だったしね……変なこと考える奴が……特に変態親父なんかに狙われやすくって」
「へ…変態……?」
「そう。ちっちゃい子供の方が襲ったって抵抗できないだろうって考えるアホな奴がいるの。ルエナ様には常に護衛がついているから、きっと知らない世界ね……あれって、襲われるような所にいた方が悪いって思ってるのかしら?」
「だ……だって……そう、じゃない……?ち、治安の悪い所に、わざわざ、いる、なん……て……」
「その治安の悪い所が『我が家』だったとしても?生まれ落ちたことが、その襲われ、犯され、殺される子供の『悪』?」
聞くのが無駄だとわかっていても、シーナは聞かずにいられなかった。
まったく、きっと、全然考えたことも、考える必要も無かった子供時代を過ごした人が、考えられる年齢になって思うことを。
「そっ……そんなっ……そっ、そんなところに住んでいる親が悪いのではなくて?!」
「『そんな所』が、その親にとっても、たまたま何の危害も加えられずに生まれ育った場所で、そこで生まれた子供が襲われたのに?……私の母は、そこで襲われそうになって、学生だった父に助けられたの。幸いなことに、服は全部破られてしまったけど、犯される前に……ね。父は十二歳の少女の裸を見てしまったことに罪悪感を覚えて、そして恋に落ちて、彼女の『家』で私を産んでもらって育てたの」
十二歳──ルエナが覚えている十二歳は、どうだったろうか?
ルエナが動く時には女性騎士が護衛と侍女を務め、どこへ出掛けるにも馬車で移動し、汚い手を伸ばしてくる貧民から護られ、女家庭教師に「あんな汚い者に気を使う必要などない」と教えられていた。


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