婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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前世・1

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シーナ・ティア・オイン子爵令嬢──それが『今』の彼女の名前だった。
記憶の奥底に隠している物。

詩音。シオン。

それが『本当の名前』だと、今でも思っている。


シーナがサラに対して押し倒して怒鳴ったこと。
それは生前の『詩音』の身に起こったことだ。
幸い妊娠はしなかった。
実家が、名字を捨てたあの生家が大病院だったおかげで。

長兄と次兄はそれぞれ十歳と八歳離れていたが、すぐ上の兄は詩音と双子だった。
名前は莉音。
悔しいことに奴の転生先は王子様で、『リオン・シュタイン・ダンガフ』──前世でその双子の兄とともにハマりまくって、同人誌まで作った大好きな乙女ゲーム『フォーチュン・ワールド~運命の人を探して~』を題材にした異世界ファンタジー小説と同名の王国の王太子様でいやがった。


凛音と詩音がそれぞれリオン・シュタイン・ダンガフとシーナ・ティア・オインとして再会したのは、五歳の奴の誕生日。
だがその前に記憶を思い出したのは四歳のある日、この世界の父親に連れられて使用人通用口から入ったら、家令のスチュアートが慌ててすっ飛んできたのが、公爵家を訪れた最初の時だった。
可愛らしく将来楽しみ過ぎるプラチナブロンドの可愛らしい少女がいて──
「レアスチール!てか、ありえねぇ!生ルエナ!!」
叫んだ次の瞬間に脳天にげんこつが落とされたが、幸いシーナの珍しい髪色を隠すために木炭で汚された頭に被された帽子のおかげで、たいして痛みはなかった。
グイッと頭を押されて前屈させられた姿勢にさせられたが、上目遣いで盗み見た彼女はまだ幼いながらも本当に美しく、涎を垂れそうになりながら自分の死因を思い出してそのまま昏倒したのである。


詩音は実の兄に二度目のレイプをされ、首を絞められて意識を失った。

一度目は十二歳。
中学受験を控えていた詩音は、知恵熱を出して寝込んでいた。
何故か凛音までもが学校を休んで看病をしていてくれたが、往診してくれた祖父と共に調剤薬を医局に取りに行くために外出した時を狙ったのか、たまたまそのタイミングだったのか──二浪しても大学に受からなかった鬱憤をぶつけたいと思った時に詩音の部屋を覗いたら詩音が寝ていた。
だから、襲われた。
嫌だと叫んだ瞬間にげんこつで頬を殴られ、衝撃で動けなくなった隙にパジャマのズボンを下着ごと脱がされ、そのまま陰部を舐められ可愛がるというよりも単に獣欲をぶつけられただけの辛い記憶。
避妊もせずに射精され、動かない妹をもう一度犯そうと軽く自分の吐き出した精液を拭っただけでまた挿入しようとしたところを、戻ってきた祖父に殴り飛ばされた。
記憶は消せなくても幼すぎた性経験を誤魔化すように処女膜は再生されたが、その前に詩音には『ただの風邪薬』と言ってアフターピルを服用させられ、妊娠していないことも確認されたのである。
そのまま詩音は莉音と共に母に連れられて家を出、兄ふたりとは遮断されて通信教育で中学を、ついで看護専門学校を卒業した。
それが父と母が別居する条件だったと聞かされたのは、詩音だけでなく凛音も無事に准看護師の国家試験に受かった時である。

せっかく平和な生活を送っていたのに──次兄がどうやったのか、母と三人暮らしするマンションどころか部屋にまで侵入してきた。
詩音は莉音と共に准看護師の免許があったものの病院勤めをする気はなく、本来進みたかった美術の才能を活かして同人誌活動をしており、凛音も一緒に引き籠って乙女ゲームやその系列小説や漫画を楽しむオタク生活を満喫していたのに。
「……こんなとこに隠れやがって……てめぇのせいで、俺の人生めちゃくちゃなんだよ!」
歳の離れた妹のたった十二年の人生をめちゃくちゃにした当人が、めちゃくちゃな言いがかりをつけてきた。
詩音を助けようとした凛音の身体を腹といわず背中といわず突き刺した後に蹴飛ばして引き離し、殴りつけて抵抗力を失くした女性にしか欲情しなくなったという最低な告白をしながら、兄は床に押し倒した妹にぶつける。
そしてふたたび自分の妹の着ていた服や下着を剥ぎ取って何度も顔を殴り、加減を忘れたままその細い首を絞めて狂ったように笑う実の兄に詩音はまた犯された。
凛音はピクリとも動かず、こちらに顔を向けて涙と鼻血と口の端からも血を流したままずっと見ていたのを視界の端に捉えていた気もするが、その頃にはもう酸欠で意識が怪しく──ブラックアウトしたのである。


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