婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
28 / 267

救出

しおりを挟む
サラの言葉に簡単に頷くことができたら──けれど、それは公爵令嬢としてだけでなく、人としてやってはいけないことだと理性が留める。
サラは何故か呆れたような溜め息をつき、それ以上は何も言わず、新しいお茶を淹れた。


すでに長期休暇のうち二十日間ほどが過ぎ、応接室から人の気配も騒音も消えて、シーナ嬢の私室となった侍女の控え部屋とルエナの応接室が繋がったことをサラだけでなく、他の侍女からも聞いた。
だがこの寝室には廊下へ繋がる扉がないため、ルエナはまったく自分の部屋から出ることができない。
その代わりとでも言うように、ルエナの応接室のテーブルに次々と新しいスケッチブックと共に何冊か本も置かれるようになり、それを無聊の慰めとできたルエナはそれほど部屋に閉じ籠ることを苦としなくなっていた。
しかもこの寝室にいる限り、会えなくとも使用人たちはルエナの機嫌を取るかのように好きなデザートを食事に必ずつけてくれ、サラの淹れてくれるお茶も好きなだけ飲める。
そのお茶を飲むと嫌なことを考えずに済み、時間が無為に過ぎるのも気にならなくなり──

ドガァァァ────ッン!!
「ヒッ…ヒィッ?!」
「な、何事です?!」
ルエナの寝室の扉が大きな音を立てて揺れる。
ドガァァァ────ッン!!
ドガァァァ────ッン!!
バキィッ!
「クッソ固いなぁ!何だってこういうお屋敷のドアって頑丈なのさっ?!ああああ!!斧!斧持ってきて!もうすぐ開けれそう!!」
聞きたくない声。
なのに、その声はなぜかものすごく焦っていて──
「ルエナ様ぁぁぁ────っ!!ご無事っ?!お茶は飲んでいないっ?!飲んじゃダメよ───っ!!」
「えっ……お、お茶……?」
サラが持ってきて、茶器が壊れるんじゃないかと思うほど乱暴にテーブルに置いた物。
何のことだろうと侍女の顔を見上げると、さっきよりも顔を歪め、壊されかけている扉の方を睨みつけている。
「クッ……ど、どうして………」
「このモブアマァァ────ッ!!そこ動くんじゃないわよっ?!ルエナ様に何かしたら、あんたが計画した方法であんたを捨ててやるんだからっ!!」
「ヒィッ!!」
バキバキバキィッ!!
ものすごい音を立てて扉が壊され蹴り開けられ、恐怖に怯えているのか突っ立ったままのサラに向かって、ふわふわと短めのピンクブロンドとデイドレスのスカートを乱した少女が飛びかかった。
ルエナは黒い影に包まれて何が起きているのか見えないが、罵る声だけが耳に響く。
「この腐れアマッ!!か弱い女の子をレイプさせようなんて、ヒトデナシがすることだよっ!てめぇみたいなのがいるから、泣く女の子が増えるんだ!!いっそてめぇが犯されろ!!孕んでから後悔しろ!!どんだけ長く苦しむと思ってるんだ?!極刑なんてすぐ終わるけどなぁっ?レイプされたら死ぬまで苦しむんだよっ!子供ができたら、死ぬことだって生き続けることだって……苦しくって……ウゥゥゥッ……」
その声は最後は弱々しく、啜り泣く声に変わっていった。

アマ?
レイプ?
犯される?
孕む?

わからない単語でシーナ嬢が訴えたことの半分ぐらいしかわからなかったが、何か本当に『酷い目』に合いかけたことだけはわかる。
それを何とも思わないどころか、『そのまま穢されればよかったのに』と思っている冷たい思考に、ニヤリと唇が歪むことも──
「………に、にい、様……?」
ガタガタと震えているのは、部屋に無理やり押し入られた自分ではなく、何も見えないようにと抱き締め続ける兄だと気付き、ルエナは息苦しさを感じながら顔を上げた。
「ふっ……クッ……」
「え……?お、兄様……?何故、泣いて……?」
「……お前は……そこまで……これも、『強制力』……なのか……?」
「きょうせい?何をおっしゃって……?」
「……たぶん、答えは、あのお茶……」
「やっ、止めてぇぇぇ───っ!ダメ…ダメよぉぉぉぉぉ────っ!!」
兄の言うこともわからなかったが、鼻を啜りながらシーナ嬢が言う『答え』に慄きながら、ルエナはサラの悲痛な叫びを聞いていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...