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救出
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サラの言葉に簡単に頷くことができたら──けれど、それは公爵令嬢としてだけでなく、人としてやってはいけないことだと理性が留める。
サラは何故か呆れたような溜め息をつき、それ以上は何も言わず、新しいお茶を淹れた。
すでに長期休暇のうち二十日間ほどが過ぎ、応接室から人の気配も騒音も消えて、シーナ嬢の私室となった侍女の控え部屋とルエナの応接室が繋がったことをサラだけでなく、他の侍女からも聞いた。
だがこの寝室には廊下へ繋がる扉がないため、ルエナはまったく自分の部屋から出ることができない。
その代わりとでも言うように、ルエナの応接室のテーブルに次々と新しいスケッチブックと共に何冊か本も置かれるようになり、それを無聊の慰めとできたルエナはそれほど部屋に閉じ籠ることを苦としなくなっていた。
しかもこの寝室にいる限り、会えなくとも使用人たちはルエナの機嫌を取るかのように好きなデザートを食事に必ずつけてくれ、サラの淹れてくれるお茶も好きなだけ飲める。
そのお茶を飲むと嫌なことを考えずに済み、時間が無為に過ぎるのも気にならなくなり──
ドガァァァ────ッン!!
「ヒッ…ヒィッ?!」
「な、何事です?!」
ルエナの寝室の扉が大きな音を立てて揺れる。
ドガァァァ────ッン!!
ドガァァァ────ッン!!
バキィッ!
「クッソ固いなぁ!何だってこういうお屋敷のドアって頑丈なのさっ?!ああああ!!斧!斧持ってきて!もうすぐ開けれそう!!」
聞きたくない声。
なのに、その声はなぜかものすごく焦っていて──
「ルエナ様ぁぁぁ────っ!!ご無事っ?!お茶は飲んでいないっ?!飲んじゃダメよ───っ!!」
「えっ……お、お茶……?」
サラが持ってきて、茶器が壊れるんじゃないかと思うほど乱暴にテーブルに置いた物。
何のことだろうと侍女の顔を見上げると、さっきよりも顔を歪め、壊されかけている扉の方を睨みつけている。
「クッ……ど、どうして………」
「このモブアマァァ────ッ!!そこ動くんじゃないわよっ?!ルエナ様に何かしたら、あんたが計画した方法であんたを捨ててやるんだからっ!!」
「ヒィッ!!」
バキバキバキィッ!!
ものすごい音を立てて扉が壊され蹴り開けられ、恐怖に怯えているのか突っ立ったままのサラに向かって、ふわふわと短めのピンクブロンドとデイドレスのスカートを乱した少女が飛びかかった。
ルエナは黒い影に包まれて何が起きているのか見えないが、罵る声だけが耳に響く。
「この腐れアマッ!!か弱い女の子をレイプさせようなんて、ヒトデナシがすることだよっ!てめぇみたいなのがいるから、泣く女の子が増えるんだ!!いっそてめぇが犯されろ!!孕んでから後悔しろ!!どんだけ長く苦しむと思ってるんだ?!極刑なんてすぐ終わるけどなぁっ?レイプされたら死ぬまで苦しむんだよっ!子供ができたら、死ぬことだって生き続けることだって……苦しくって……ウゥゥゥッ……」
その声は最後は弱々しく、啜り泣く声に変わっていった。
アマ?
レイプ?
犯される?
孕む?
わからない単語でシーナ嬢が訴えたことの半分ぐらいしかわからなかったが、何か本当に『酷い目』に合いかけたことだけはわかる。
それを何とも思わないどころか、『そのまま穢されればよかったのに』と思っている冷たい思考に、ニヤリと唇が歪むことも──
「………に、にい、様……?」
ガタガタと震えているのは、部屋に無理やり押し入られた自分ではなく、何も見えないようにと抱き締め続ける兄だと気付き、ルエナは息苦しさを感じながら顔を上げた。
「ふっ……クッ……」
「え……?お、兄様……?何故、泣いて……?」
「……お前は……そこまで……これも、『強制力』……なのか……?」
「きょうせい?何をおっしゃって……?」
「……たぶん、答えは、あのお茶……」
「やっ、止めてぇぇぇ───っ!ダメ…ダメよぉぉぉぉぉ────っ!!」
兄の言うこともわからなかったが、鼻を啜りながらシーナ嬢が言う『答え』に慄きながら、ルエナはサラの悲痛な叫びを聞いていた。
サラは何故か呆れたような溜め息をつき、それ以上は何も言わず、新しいお茶を淹れた。
すでに長期休暇のうち二十日間ほどが過ぎ、応接室から人の気配も騒音も消えて、シーナ嬢の私室となった侍女の控え部屋とルエナの応接室が繋がったことをサラだけでなく、他の侍女からも聞いた。
だがこの寝室には廊下へ繋がる扉がないため、ルエナはまったく自分の部屋から出ることができない。
その代わりとでも言うように、ルエナの応接室のテーブルに次々と新しいスケッチブックと共に何冊か本も置かれるようになり、それを無聊の慰めとできたルエナはそれほど部屋に閉じ籠ることを苦としなくなっていた。
しかもこの寝室にいる限り、会えなくとも使用人たちはルエナの機嫌を取るかのように好きなデザートを食事に必ずつけてくれ、サラの淹れてくれるお茶も好きなだけ飲める。
そのお茶を飲むと嫌なことを考えずに済み、時間が無為に過ぎるのも気にならなくなり──
ドガァァァ────ッン!!
「ヒッ…ヒィッ?!」
「な、何事です?!」
ルエナの寝室の扉が大きな音を立てて揺れる。
ドガァァァ────ッン!!
ドガァァァ────ッン!!
バキィッ!
「クッソ固いなぁ!何だってこういうお屋敷のドアって頑丈なのさっ?!ああああ!!斧!斧持ってきて!もうすぐ開けれそう!!」
聞きたくない声。
なのに、その声はなぜかものすごく焦っていて──
「ルエナ様ぁぁぁ────っ!!ご無事っ?!お茶は飲んでいないっ?!飲んじゃダメよ───っ!!」
「えっ……お、お茶……?」
サラが持ってきて、茶器が壊れるんじゃないかと思うほど乱暴にテーブルに置いた物。
何のことだろうと侍女の顔を見上げると、さっきよりも顔を歪め、壊されかけている扉の方を睨みつけている。
「クッ……ど、どうして………」
「このモブアマァァ────ッ!!そこ動くんじゃないわよっ?!ルエナ様に何かしたら、あんたが計画した方法であんたを捨ててやるんだからっ!!」
「ヒィッ!!」
バキバキバキィッ!!
ものすごい音を立てて扉が壊され蹴り開けられ、恐怖に怯えているのか突っ立ったままのサラに向かって、ふわふわと短めのピンクブロンドとデイドレスのスカートを乱した少女が飛びかかった。
ルエナは黒い影に包まれて何が起きているのか見えないが、罵る声だけが耳に響く。
「この腐れアマッ!!か弱い女の子をレイプさせようなんて、ヒトデナシがすることだよっ!てめぇみたいなのがいるから、泣く女の子が増えるんだ!!いっそてめぇが犯されろ!!孕んでから後悔しろ!!どんだけ長く苦しむと思ってるんだ?!極刑なんてすぐ終わるけどなぁっ?レイプされたら死ぬまで苦しむんだよっ!子供ができたら、死ぬことだって生き続けることだって……苦しくって……ウゥゥゥッ……」
その声は最後は弱々しく、啜り泣く声に変わっていった。
アマ?
レイプ?
犯される?
孕む?
わからない単語でシーナ嬢が訴えたことの半分ぐらいしかわからなかったが、何か本当に『酷い目』に合いかけたことだけはわかる。
それを何とも思わないどころか、『そのまま穢されればよかったのに』と思っている冷たい思考に、ニヤリと唇が歪むことも──
「………に、にい、様……?」
ガタガタと震えているのは、部屋に無理やり押し入られた自分ではなく、何も見えないようにと抱き締め続ける兄だと気付き、ルエナは息苦しさを感じながら顔を上げた。
「ふっ……クッ……」
「え……?お、兄様……?何故、泣いて……?」
「……お前は……そこまで……これも、『強制力』……なのか……?」
「きょうせい?何をおっしゃって……?」
「……たぶん、答えは、あのお茶……」
「やっ、止めてぇぇぇ───っ!ダメ…ダメよぉぉぉぉぉ────っ!!」
兄の言うこともわからなかったが、鼻を啜りながらシーナ嬢が言う『答え』に慄きながら、ルエナはサラの悲痛な叫びを聞いていた。
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