婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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その『夢』を見るようになったのは、四歳のある日。

父に連れられて、ある可愛らしい令嬢の絵姿を描くために、大きな屋敷に来た日の夜。
その可愛らしい令嬢は美しく成長し、しかし長じて貴族学園で市井にあった子爵令嬢が王太子と懇ろになったことで婚約者としての座を危ぶみ、彼女を厭うようになった。
そして卒業パーティーでそれまで子爵令嬢に対して小さな嫌がらせから発展し、命の危険に及ぶような行為を行ったことを暴露され、王太子から婚約破棄されて公爵家の名誉を貶めた責任を負わされて、ひとり辺境の中でも厳しく死亡する者も多い修道院へ生涯閉じ込められて行方不明になってしまう──

「その夢は、実は王太子殿下も違った形でご覧になっており、私は殿下とアルベール様にお会いした時にお互いその話をしたのです。起きることや結末も違わず、おそらくこれは予知夢だと思われ、特に近くにいらっしゃった殿下がその夢の通りのことがたびたび起こることを確信された後から、私たちはどうにかルエナ様がそんな悲惨な未来を歩まぬようにと努力してきたのです」
「そっ……そんな……」
嘘ではない。
が、完全に本当の形ではない状態で口を閉じると、公爵夫人がふらりと夫の方へ倒れ込んだ。
だが話はここで終わりではない。
「ここからは何故、王太子殿下が彼女を……シーナ嬢をこの屋敷で預かってほしいと言ったかという話になります。続けてよろしいですか?父上」
「……ああ。まだ完全に信じたわけではないが、最後まで聞こう。我々が聞かされたのは、『シーナ・ティア・オイン子爵令嬢が画家として活動するにあたり、高位貴族との繋がりを持てるよう、礼儀作法を教え込んでもらいたい。報酬としてルエナやアルベール、家族肖像画などを優先的に描いてもらうこと。またシーナ嬢の絵画の取り扱いをディーファン家が行うこと』という話だけだが」
「それはシーナ嬢を預かった後に、ディーファン家が得られる利益の部分でしょう。そうではなく、予知夢と少し時期が変わり、今回の長期休暇前に彼女の命が危険にさらされる事件が起こり、ひょっとすると卒業を待たずにルエナを修道院に追いやる事象が起こりかねないということです」
そうしてアルベールが話したのは、ルエナにも説明をしたシーナ嬢をこの屋敷に匿うという理由付けになった『階段からシーナ嬢が突き落とされた事件』の話である。
むろんその犯人は現在捜索中ではあるが、ルエナではないことはリオン王太子もシーナ嬢もアルベールも知っていることを伝えると、公爵夫妻は顔を青褪めて目の前の若いふたりを交互に見やる。
「なっ……」
「そ、そんな……」
「いや、アル……結局最後は自分で話しちゃったじゃん……」
いまだ手を放してくれないことをどうしようと思いつつ、シーナは思わず突っ込んだ。
「ルエナが呼びだしたのでも、シーナ嬢を階段から突き落とせと命じた犯人でもないことはわかっています。伝言ゲームを始めた最初の人間に近付きつつありますが、何故かそこに近付こうとすると皆、急に口が堅くなるのです。しかしその者たちの家は我が家と付き合いが薄く、別の公爵家の派閥であることがわかっています。それが本当に意味のあることかどうか、単に交友関係が偏ってしまったのか……王太子殿下ともども調査中なんです」
「それはわかった……だが、それでもやはり、屋敷の内装を変えて、ルエナの部屋からしかシーナ嬢の部屋へ入れないようにするというのは……」
「確かにシーナ嬢の未発表の絵画や習作であるデッサンはとてつもない価値があります……が、それ以前にルエナの部屋へ出入りする際、シーナ嬢にその姿を見られる可能性があり、何かルエナに不利な行動や『作られた証拠』を置かれることを防ぎたいんです」
「そ、それは……使用人の中に、シーナさんやルエナを傷つけようとする者がいるっていうこと?」
「まあ……どちらかというと『誰かに命じられて』だったり『頼まれてやった』という形だと思います。私の持ち物への攻撃ならば『いきなりやってきた子爵家の小娘への嫌がらせ』で済むかもしれません……まあ、公爵家に勤めるような常識のある方がそんなことをすると知られれば、ちょっと世間体が悪いとは思いますが」
「せけんてい……?そ、それはどう言う意味かね?」
「あ」
どうやらここいらではそういった表現をするのではないと察し、シーナはどう言い方を変えたらいいかと悩んだ。
「えぇと……『由緒正しい高位貴族家なのに、使用人に対してきちんとした勤務態度を取るようにという指導すらできない』というふうに、他の貴族家に対して示しがつかないというか」
「まぁ!そんな……そんなこと!大変だわ!シーナさんの立場は使用人ともお客様ともはっきりしない微妙なものかもしれないけれど、王太子殿下からも『危険が及ばないように』と我が家に預けられたのですわ!そんなことは女主人であるわたくしが許可いたしません!」
ビシッと公爵夫人が背筋を伸ばして、部屋に控えるスチュアートに命じて、家政婦長を呼びに行かせた。


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