婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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正気

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シオン……いや、シーナ嬢を、よろしく頼むね。



聞き慣れた声が、ふと頭の中に蘇る。

しおん?
しーな?
嬢……ということは、女性……未婚の……
それは、可愛らしい……薄汚れた黒……違う……ブロンド……少し桃色がかった……珍しい、髪色の……少女………

「し……お……」
「しっ、しーな!シーナですわ!シーノ・ティア・オイン!子爵家の娘ですわ!」
慌ててシーナが叫ぶと、アルベールはパチパチと音を立てて瞬きをしてから頭を振った。
「お…俺……わ、私、は……?」
「大丈夫!何でもない!たぶん『補正力』が働いただけ!あなたはルエナ様を憎んでなんかいない!『いなくなってしまえ』なんて思っているはずがないの!違うの!少しだけ……ルエナ様と私がちゃんと仲良くする時間が取れなくって、イラついているだけだから!安心して。息を吸って…吐いてぇ……吸ってぇ……吐いてぇ……」
突っ立たままのアルベールの手を取って元の位置に座らせると、シーナはそのまま片手をカタカタと震えながら組む大きな手に乗せ、もう片方でやはり震える背中を優しく擦る。
アルベールは焦点が鈍りそうになりながらも、優しい声に誘導されるままに深呼吸を繰り返し、ようやく頭を上げた。
「俺……は……」
「うん……ごめんね?きっと私がここにいた方が影響は少ないと思ったんだけど……リオンがいた方が、もう少し抑制が効いたのかも……もしくは、ここにルエナ様に対して『毒』になりそうな人とか物とか……あるのかも……」
「シ、シーナ嬢?」
「いったい何のお話…なのかしら?」
いつもながらだんだんと訳の分からないことを話すシーナ嬢の顔を黙って見ていたアルベールは、いつかリオン王太子と彼女が自分に話して聞かせたことが妄想ではないということがだんだんと理解できてきたが、両親は詳しいことを知らされていないため、やはり混乱した顔をして聞き返してきた。
「……シーナ嬢、やはりここは我が父と母にもある程度のお話をしていただいた方が、いいのではないだろうか?」
「で、でも………」
珍しくシーナ嬢が躊躇うと、アルベールの冷えた手に乗せたままだった細い指が掬われて握られる。
「もしそれがきっかけで、両親のあなたを見る目が変わったとしても、私は変わらない……俺は変わらない。変わるわけがない。それは知っているだろう?だが、それでもやっぱり殿下とあなたが知っていて、ルエナを守るためにここにいる理由を話してくれた方がいいと思うんだ」
「ルエナを守る……?アルベール、一体何の話をしてるんだ?」
「……かつて彼女の父君が、彼女のこの珍しい髪色と美しい容姿を、周囲の目から守るために変化させたのと同じような理由です。彼はそうしなければいけない理由を知らず、しかしただ親として彼女を幼児性欲者から隠すためにしたことが、彼女を清い身のまま我々に引き合わせてくれる結果となったという話です」
「……やっぱり、わからないぞ?」
「ということなので、やっぱり話してください。あー…えぇと、その……『予言』をわかりやすく、何なら省けるところは省いてもらって」
「………あ──っ!そっかぁ!そうね!そうそう!『予言』!!そっかぁ……『予言』にすれば、そうね……えぇと……」


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