婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
5 / 267

困惑

しおりを挟む
主に家族だけや特に親しい友人などしか招かれない第二応接室に入っても、ルエナの孤独感は癒されなかった。
父も母も誇らしげで特に怒り心頭ということもないのがおかしいと言えなくもないが、とにかくルエナが皆の前で酷い侮辱を受け、身に覚えのない罪で婚約者が囲う子爵令嬢を自分の側仕えという名目で引き取り、自分と見劣りしないぐらいの礼儀作法や貴族的教育を施せと命令されたことについて、悪印象どころか嬉しがっているように見える。
「あの………」
「話は聞いた。お前も懐かしいだろう。部屋はお前の横に用意させるから、仲良くしてやるといい」
「あっ……あのっ……わたくしの隣の部屋は……サラの控室ですが……」
「ん?そうだったか……?では同じ階にもうひとつ控えの部屋があったろう」
父が機嫌良さそうに話すのを遮るのは得策ではないと思ったが、多少叱られてもシーナ嬢を側に置かれるのだけは避けたいと思って、ルエナは震える声で考え直してほしいと言外に頼む。

──が。

「そちらにサラの物を移すように。何かあればすぐに呼べるように呼び鈴もある。心配することはない」
「は…はい……っ」
「ふふ……そういえば、あなたの友人・・を泊まらせることなんか、王太子妃教育が始まってからはなかったものね!私は婚姻前から実家でよくお友達とガーデンパーティーやお泊り会なんかもしていたから、あなたにそんな経験をさせてあげられないことが悲しかったわ。ああ、でもこれで少しは寂しさも紛れるわね?」
そう言ってにっこりと笑う母に、ルエナは反論することができない。
叫びたい。
子爵令嬢であるシーナ・ティア・オインなんかとは友達じゃない、と。
彼女を側付き侍女の部屋になど住まわせたくはない、と。
だが公爵家に生まれたその身が、教育が、そして王太子の婚約者という立場が、ルエナから言葉を奪った。
「いやしかし……思ってもみなかった。あの子は男の子でなかったなど」
「仕方がありませんわ。男手ひとりで子供を育てるのに、女の子であれば何かと疑われますもの……ましてや平民の出ではないと知れれば、かどわかしにあってしまう可能性もありますわ。そうなれば、縁を切ったはずの生家に迷惑が掛かって、自分たちの居所がわかってしまう……」
「実際今回はオイン子爵に預けたわけだろう?」
ここでやっと父が眉を顰めたが、それは平民との間に生まれたシーナを厭うてのことではないらしい。
「仕方ありませんでしょう?オイン子爵家に今いるのはオイン子爵ご本人の希望ですもの。でも、おかげで感動の再会だわ!」

かんどう?
さいかい?

ルエナは困惑に浮かびかけていた涙もやり場のない怒りも霧散し、ポカンと両親と兄の顔を順番に見る。
「……ひょっとして、ルエナは覚えていないのか?」
「……何の、お話でしょうか?」
固い口調になってしまったのは、自分にはまったくわからない思い出話らしき会話を両親だけでなく、聞いているだけの兄も楽しんでいるようで、ルエナだけ仲間外れにされている気持ちになってしまったからだった。
「そうか……覚えていないのか……なるほど……ああ、だからこそ」
兄が何か企むように、意地の悪い笑みを浮かべる。
そんな目で見れば、父も母もルエナを憐れむような笑みを浮かべていた。
「……お話が終わりでしたら、下がらせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え?」
「いや、ど、どうした……?」
いつもの従順な態度ではなく、もうすぐ成人になるはずの令嬢らしからぬ反抗的な態度でルエナは父が止める間もなく、さっさと立ち上がり、一礼して退室した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...