婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
3 / 267

密室

しおりを挟む
「よっしゃぁ~~~~~!!」
「おいおい……」
かなり分厚く作られた王太子専用の応接室で、シーナ嬢は手足を伸ばした姿勢で、ソファに倒れ込んだ。
それを見てもリオンは注意をするわけでもなく、苦笑している。
部屋に侍従はおらず、若い王太子と身分が低すぎる令嬢のふたりきり。
それを咎める者はおらず、単なる婚姻前の火遊びだと思われている節があることは、ふたりとも承知していた。
「……はぁ~、良かったぁ……」
「うん……良かった……」
「えっ!?あんたのその『良かった』は絶対下種極みの『下位貴族令嬢の面倒を任せられる屈辱に涙目になりながらも、健気に耐えるルエナ様』に萌えたっていう『良かった』でしょう?!アタシのは違うからねっ?!」
「グッ……」
確かにあの美しい顔が強気に耐えている表情も、悲しげに瞳が揺れるのも、男として庇護意識が湧きおこらなかったわけではない──はずだ。
「いや!でもちゃんと良かったと思っているんだぞ?!おかげでお前が公爵家に保護されるわけだし……」
「いやいやいや……あんたにちょっとSっ気があるのは、ちゃんとわかってるんだからね?……それにしても」
「ああ……あの場にいた者は全員学園に通う者たちだからな。ちゃんと皆の表情と発言は控えさせている」
「おおお!さっすが!やり込み具合と理解力と対応力が半端ねぇ!!」
向かい合ってサムズアップしあうふたりは、揃ってテーブルの上の紅茶を湯こぼしに開ける。
「まったくねぇ……避妊薬入りの紅茶なんて、手の込んだことするよねぇ~?マジで子供出来なくなったら恨むからねっ!」
「飲んだことないくせに……」
初めてこの部屋にシーナを呼んだ際、丁寧に淹れられた紅茶を口に含んだリオンは、おかしな味がするとそのお茶に含まれている物を秘かに調べさせた。
その結果、男性側にとってはあまり影響がなく、だが女性には不妊を引き起こしかねないような量の避妊薬が混ぜられていることを知り、ふたりはこの部屋にいる間はシーナ自身が持ち込んだ水筒から水を飲み、同じくシーナ手製のクッキーだけを食べるようにしている。
「いくら俺に影響はほぼ無いって言ってもさぁ……」
「薬に絶対は無いからね!ちゃんと健康な跡取り作るなら、絶対アタシお手製のハーブダイエットクッキーの方が安全だもん!」
ボリボリとそのクッキーを自ら頬張るが、さっきのぞんざいな態度とは裏腹に、スカートに落ちた食べ屑をひとつ残らず集めて持参のハンカチに包んだシーナはにっこりと笑った。


とりあえず王太子から命ぜられた子爵令嬢を側に置くための許可を両親からもらうという理由で、ルエナ嬢は自分を避けてヒソヒソと噂話をする子息や令嬢たちのたむろする大広間を辞した。
何故か正面玄関にはすでに公爵家の馬車が用意されており、ルエナが乗り次第帰宅する指示を受けていると待機していた侍女が説明してくれる。
「な、何故……?一体誰が……?」
「王宮の王太子付き側近様がお言伝を寄こされました。王太子様からのお手紙もございます」
「え?」
震える手で受け取った封筒にはきちんと王太子の封蝋も押されており、これが偽の手紙でないことが示されている。携帯用の小さなペーパーナイフを渡されて開封すると、そこには見間違えようのない文字で、先ほどの下命の理由が書かれていた。

先ほどの強い態度の謝罪。
下位貴族で、市井からの養女であるシーナ・ティア・オイン令嬢が未遂ではあるが、実際命を狙われるような出来事があったこと。
彼女が婚約者であるルエナとは別の意味で、王太子であるリオンにとって大事な友人・・・・・であるということ。
そして彼女を匿ってもらうのに、同じ子爵家や伯爵家程度では防げないかもしれず、また彼女のことを疎ましく思って保護することを怠る可能性があること。

「……それほど、大切な人・・・・ですのね……」
綺麗に施された化粧が落ちてしまうことも構わず、ルエナは静かに涙を落した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...