婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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ぐっとルエナは下唇を噛んだがそれ以上は反論せずに、悔し気な色を漂わせながらもその紫がかった瞳を伏せて、もう一度視線と腰を深く落とすと、そのそばにタタタッと淑女らしからぬ足音をたてて、傷がついて少し汚れた靴が近付いてきて──
「やったぁ!お願いしますね!ルエナ様っ!アタシ、一生懸命礼儀とか覚えて、ふさわしいように・・・・・・・・頑張りますからっ!」
スカートに軽く添えられて持ち上げていただけの片方の手をいきなり握られ、シーナ嬢が無邪気に叫んだ。
淑女?
それ以前の問題である。
(ど、どうやってこのような女性ひとを、王太子様にふさわしく・・・・・・・・・・教育するのでしょう……)
正しく教育するのはルエナ自身ではなく、おそらく家庭教師などが付かなければならないが、その費用や時間を用立てるのは自分であろう。
確かに公爵家からルエナ名義の資産はあるが、側に彼女を置くということは侍女として扱うのか、話し相手コンパニオンとしなければならないのか──公爵家令嬢ともなれば、腹心ともいえる専任侍女であれコンパニオン役であれ、同程度の教育を受けた上で身分差による礼儀も弁えている侯爵家か伯爵家などから次女や三女などが選ばれるのだが、彼女は子爵家の者だ。
しかも──
『大丈夫なのかしら……?あの方って、ほら……』
『ええ。確か最近子爵家へ養女に入られたと』
『とても自由に生きられたオイン家のご次男が出奔なさって、市井でもうけられた私生児とか……』
クスクスと嘲笑を込めた囁きが、ルエナの背後から聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさで、小波さざなみのように広がっていく。
しかし目の前にはそんな言葉をちゃんと聞きとったらしいシーナ嬢が怒りを込めた目をあちこちにやりながら、ものすごい笑みを浮かべているのを見て、ルエナはげんなりというのがぴったりな感情を覚えた。
「……か、畏まりました……では、シーナ様……」
「えっ?!シーナって呼んでください!お姉様って呼んでもいいですか!!」
「えっ……」
ルエナはシーナの言葉に絶句した。
どこの世界に使用人として側に就かせる人間に『お姉様』などと身内呼びを許す家庭があろう。
それとも、そうするのが市井の習わしなのだろうか?
『まぁっ……嫌だわ。これだから平民上がりというのは……』
『お可哀想に……王太子様からのご下命と言えど、あのような者を預からねばならないなんて……』
『あのような横暴なご下命をされる方が次の王なんて……我が王国の末は大丈夫なのかしら?』
成人前といえどそれぞれ爵位を持つ親がおり、耳をそばだてていれば学園を卒業した先に自分がどの位置に立てばいいのか、誰の派閥に入ればいいのかを予想できる。
そんな目を養うためにも、貴族の子息や令嬢ばかりが集められたこの学園は、存在する意義を持った。

ということは婚約者である王太子の発言により、今この瞬間を持ってディーファン公爵家の威光は地に落ちたに等しい。


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