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とにかく詳しい話を聞くことにした。
祖父と父はまだガルガルと睨み合っているため、ヒロトはそっと客間を抜け出し、工房ではなく裏口から完全なプライベート空間である庭へと連れ出す。
「んじゃぁ、改めて。カイトゥ・ヒロト。です」
「ミューゼ・ハゥバーソン。ミュウと愛称で呼んでいただければ……」
「ミュウ……いきなり愛称で?」
「ええ。ではカイトゥ様は『カイ』でよろしいのですよね?」
「んにゃ。違う」
「え」
「『カイトゥ』は俺と親父の名字」
「ミョウジ?」
「あ~……えぇと……ファーストネーム……いや、家名?」
「ふぁー何とかはわかりませんが、そうですの……では、『カイトゥ家』のご子息で、お間違いないのですね?」
「うん。『ヒロト』が名前。皆には『ヒロ』って呼ばれてる」
「ヒロ……様……」
「『さま』はいらないよー。てか、さっきから気になったんだけど、どうしてそんな上品な喋り方?貴族っぽいけど?」
「え……?あ、あの……お聞き及び、では……?」
「ん?」
「え?」
ミュウ──ミューゼ・ハゥバーソンは男爵位を持つ貴族家の令嬢である。
ただし三代前までは金持ちな公爵家御用達武器を専門に作る、鍛冶工房の工房主兼職人であり平民だった。
あまりにも見事で芸術的な武器や鎧を作る曾々祖父に息子である曾祖父の技術は、公爵を通じて王家にも伝えられ、繊細で装飾品としても価値のある女性用装身武具を作り出して王女のための女性護衛たちを着飾らせるという偉業を成し遂げたため、一代貴族として騎士爵を与えられたのが始まりである。
本来ならば曾祖父一代だけで終わるはずの名誉的な爵位だったが、公爵家の三男が当時のハゥバーソン家の末娘に惚れ込み、婿入りすることになったのだが──さすがに公爵家の息子を平民の家に入れるわけにいかず、『女性の身を守る武器や美しい防具を作った業績を讃え』て世襲が認められる男爵位へ陞爵となった。
「……なんか、無理やりだなぁ」
「そう、思われます……か……」
ヒロトの嘆息に、ミュウは苦笑で答えた。
そしてさらにミュウの語りは続く。
しかし末娘夫妻にはなかなか子供ができなかった。
せっかく迎え入れた高貴な血を途絶えさせることは、せっかく貴族となったのに再び平民落ちすることを意味し、それだけは避けたい曾祖父は怪しげな異国の薬を取り寄せてまで、娘の懐妊を願った。
その薬のおかげか、たまたまタイミングが良かったのか、婚姻十年目にして娘が、そして年子で男の子が、さらに二年後に双子の男の子が産まれ、孫娘は曾祖父の長男の後妻として三十五歳差で嫁ぎ、白い婚姻のまま死に別れて曾祖父の後妻が産んだ十歳差の末息子と再婚してミウの父を産んだ。
「え?え?ま、待って?ちょっと待って?家系図がこんがらがって……わけわからん……」
「ええ、私もよくわかっておりません。とにかく……本来ならば母の最初の夫の息子が工房を継ぐはずでしたが、その……才能が無くって……代わりに父が工房を継いだんです」
異母兄は金勘定やら交渉事は上手かったのだが、いかんせん『芸術的な防具や武器』というものに理解がなく、父は父で『戦うためではなく着飾るための芸術的な防具や武器』という方面においてのみ腕を揮えるというおかしな技術を持っており──
「こちらの工房で作られる、美しくも不思議な効果のある道具の数々を盗み、その技術を組み込んだ防具や武器を作りたいというのが……父の希望なのです」
祖父と父はまだガルガルと睨み合っているため、ヒロトはそっと客間を抜け出し、工房ではなく裏口から完全なプライベート空間である庭へと連れ出す。
「んじゃぁ、改めて。カイトゥ・ヒロト。です」
「ミューゼ・ハゥバーソン。ミュウと愛称で呼んでいただければ……」
「ミュウ……いきなり愛称で?」
「ええ。ではカイトゥ様は『カイ』でよろしいのですよね?」
「んにゃ。違う」
「え」
「『カイトゥ』は俺と親父の名字」
「ミョウジ?」
「あ~……えぇと……ファーストネーム……いや、家名?」
「ふぁー何とかはわかりませんが、そうですの……では、『カイトゥ家』のご子息で、お間違いないのですね?」
「うん。『ヒロト』が名前。皆には『ヒロ』って呼ばれてる」
「ヒロ……様……」
「『さま』はいらないよー。てか、さっきから気になったんだけど、どうしてそんな上品な喋り方?貴族っぽいけど?」
「え……?あ、あの……お聞き及び、では……?」
「ん?」
「え?」
ミュウ──ミューゼ・ハゥバーソンは男爵位を持つ貴族家の令嬢である。
ただし三代前までは金持ちな公爵家御用達武器を専門に作る、鍛冶工房の工房主兼職人であり平民だった。
あまりにも見事で芸術的な武器や鎧を作る曾々祖父に息子である曾祖父の技術は、公爵を通じて王家にも伝えられ、繊細で装飾品としても価値のある女性用装身武具を作り出して王女のための女性護衛たちを着飾らせるという偉業を成し遂げたため、一代貴族として騎士爵を与えられたのが始まりである。
本来ならば曾祖父一代だけで終わるはずの名誉的な爵位だったが、公爵家の三男が当時のハゥバーソン家の末娘に惚れ込み、婿入りすることになったのだが──さすがに公爵家の息子を平民の家に入れるわけにいかず、『女性の身を守る武器や美しい防具を作った業績を讃え』て世襲が認められる男爵位へ陞爵となった。
「……なんか、無理やりだなぁ」
「そう、思われます……か……」
ヒロトの嘆息に、ミュウは苦笑で答えた。
そしてさらにミュウの語りは続く。
しかし末娘夫妻にはなかなか子供ができなかった。
せっかく迎え入れた高貴な血を途絶えさせることは、せっかく貴族となったのに再び平民落ちすることを意味し、それだけは避けたい曾祖父は怪しげな異国の薬を取り寄せてまで、娘の懐妊を願った。
その薬のおかげか、たまたまタイミングが良かったのか、婚姻十年目にして娘が、そして年子で男の子が、さらに二年後に双子の男の子が産まれ、孫娘は曾祖父の長男の後妻として三十五歳差で嫁ぎ、白い婚姻のまま死に別れて曾祖父の後妻が産んだ十歳差の末息子と再婚してミウの父を産んだ。
「え?え?ま、待って?ちょっと待って?家系図がこんがらがって……わけわからん……」
「ええ、私もよくわかっておりません。とにかく……本来ならば母の最初の夫の息子が工房を継ぐはずでしたが、その……才能が無くって……代わりに父が工房を継いだんです」
異母兄は金勘定やら交渉事は上手かったのだが、いかんせん『芸術的な防具や武器』というものに理解がなく、父は父で『戦うためではなく着飾るための芸術的な防具や武器』という方面においてのみ腕を揮えるというおかしな技術を持っており──
「こちらの工房で作られる、美しくも不思議な効果のある道具の数々を盗み、その技術を組み込んだ防具や武器を作りたいというのが……父の希望なのです」
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