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『帝王切開』という王都ですら最先端の出産方法で産まれた双子のことは、その出産方法は伏せて、速やかにヒロたちの住む町全体に広がった。
つまり「とても腕のいい医者がいる。しかしそれは女だけど」という偏見を含んだ噂が近隣の村にまで流れることを意味し、本当に女の医者がいるのかと興味本位で『産院』を訪れ、逆にシュー女医の毒舌で追い返される日々が続く。
「あのー……腹痛いんですけど……」
「え?何、あんた?ひげ生えた女?珍しい現象もあるものね?もしかして下もついてんの?あらやだ!どうしてそんな邪魔なもん持ってるの?きっと病気ね?切っちゃいましょう?さっさと『普通の女』に戻らないとねぇ?え?大丈夫よぉ?お母様も可哀想に!あんたみたいな『男みたいな女の子』を育てるなんて、さぞかし苦労されたんでしょうねぇ……あまりにも同情しちゃうから、金貨百枚で立派な女の子・・・・・・に戻してあげるわ!」
怖ろしく切れ味のいいメスが診察台に寝かされた男のズボンと下穿きをはらりと切り裂き、その切っ先を突き立てられてみっともないほど縮こまった男性のシンボルを物ともせず、逆にどうやって切り落とすのかと微に入り細に入り舌なめずりしつつ語るシュー女医は、その美貌と相まってまるで殺人鬼のように見えなくもない。
そして恐怖にビビりまくって動けない男を救う天使の声が──
「早く前を隠してさっさと病院を出ないと、あなた本当に金貨百枚で二度と女性と同衾できない身体にされますよ?しかも今のそのぶさ……野性味あふれる顔のままで、子供作れない身体になるなんて……それこそ一族の面汚しで、明日まで命があればいいですねぇ?」
にっこり笑って美しいながらちゃんと男性の格好をしたルネが犠牲者未満にそう語りかけると、シュー女医が息の合った調子で笑いながらメスをひらめかせる。
「ええ~?人聞き悪いわぁ!女性と同衾なんて……女性なのに男性と同衾できない彼女・・の方が可哀想じゃなぁい?こんな邪魔なモノがあったら、本来の性交渉もできないのよ?あ…ひょっとして、『受け入れる場所』も無いのかしら?それならやっぱり子袋も切り取って、股の間を切って穴を開けないとねぇ……」
にたり。
そうとしか表現のできない笑顔でさらに楽しそうにシュー女医がメスを腹部に押し付けようと──する前に、『患者』は尻を剥き出しにしたまま診察室からまろび出る。
まさか『性転換』という概念はないだろうが、いかにもその手の手術をやり慣れている感を出す演技は見事なものだ。
そう思っていつの間にか看護師的な仕事を手伝うようになったヒロは苦笑する。
が、実のところ『知識』としてだけ、シュー女医は思いがけない方法で『男を女にする術』を知っていた。
「……実は、さ……ボクの前世の友人で性転換した子がいて……彼…あ、彼女か……どこをどうやって切ったり繋げたりして……その……『男性から女性になるか』っていうのを教えてくれたんだ」
「……で?」
「ん~……やっぱり、好きな女性の前ではカッコつけたいじゃない?レティの気を惹くためには、珍しい医術を披露すればいいかな~……って」
「ええええっ?!そんな理由っ?!」
「ヒロ……お前も好きな女の子ができればわかるよ……いや、女の子じゃなくて『パートナー』って言った方がいいんだっけ?」
「そうそう。何も生涯の伴侶が異性とは限らないんだから!そういうふうに柔軟な思考のアキっていいよ!」
大人ふたりがニヤニヤと笑うが、今のところヒロには意中の相手などいない。
というかむしろこの村で出会いを求めるのが間違っているとしか思えない──何せヒロが話しかけられる年頃の異性といえば、チャムシィの上の妹たちぐらいだ。
他にも子供がいないわけではないが、悲しいことに通う学校や私塾といった狭い範囲で組織が出来上がり、気軽に交際できる雰囲気ではない。
だいたい職人と商人、そして農家や酪農家など自分たちの仕事を一族や血族で守るため、異業種の血が交わることなどほぼ無いのだ。


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