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この世界に魔法はあるけれど、その人の資質とか体質的なもので保持量が左右されるため、一応は『薬草』が出回っている。
いるのだが──
「そうだねぇ……薬学もあまり発展していないから、『頭痛を治す薬草』と『痛みを鈍くする薬草』を組み合わせてとか、『熱を下げる薬草』と『眠れるように心落ち着かせる薬草』を一緒にすり潰して作る薬とかは……この国にはないみたいだねぇ」
そこのところは父もルネも大学では学んでおらず、同じ大学の医学部の友人から薬事法とか組み合わせるとヤバい薬だとか、あまり真面目でない方面での話しか聞いていないらしい。
もちろんヒロトも医学関係の勉強をしようと思ったことはないので、『頭痛解熱剤は眠くなる成分が入っているものがあるから車の運転はやめておいた方がいい』とか『薬を飲む時に緑茶はやめておいた方がいい』などという禁止事項の方が記憶に残っている。
それでもやっぱり解熱剤と咳止めがあったら風邪の時に楽だなと思うし、ゲームで言うところの『ポーション』に当たる体力回復ドリンクの不味さをどうにかできればいいのにと思わないでもない。
一種類の草から一種類の効能──それがこの世界の常識。
それを複数掛け合わせてもっと多方面に応用できる薬を作るよりも、魔法や魔術で効能をレベルアップして服用するから、病気の完治がアホみたいに遅いのだ。

熱を下げるために薬草を刻んだりすり潰して飲む。
それが止まったら鼻水を止める薬草を以下同文。
そしてその後に咳を止めるために以下同文。

治める順番に差異はあっても、病気を引き起こしている症状がひとつ収まってから次の薬を飲むという非効率さに、なぜみんな気が付かないのか?
もしくは薬効をレベルアップさせているが故に効きすぎて、逆に他の症状を悪化させることもある。
「まあ……だいたいは『熱が下がったら他の症状も小康状態になるから放置』で、自然治癒しちゃうからじゃない?そうするとやっぱり『薬草を組み合わせて複合薬を作る』発想にはいかないんだと思うよ?よく言うでしょ?都会っ子より田舎っ子の方が丈夫だって」
「何ソレ?都会に住んでても、田舎に住んでても、丈夫かどうかなんて食生活と運動量と本人の丈夫さだろう?」
「そ、それはそうなんだけど……」
息子に言い込めれらて、アキはタジタジとなる。
アキの認識は前世でも古い方で、ヒロトが産まれた頃は都会でも地方でも生活様式はほぼ統一化されていたから、それこそアキたち親世代ではあった『健康格差』なんてほとんどなかった。
どちらかといえば交通網が発達している都心部の人の方が公的機関を利用して歩き回り、地方では『車がないと生活できない』と子供の送り迎えも学校が用意したマイクロバスで集落から大きい町へ通学させていたのだから。
「でも、他の国では薬学が発展しているところだってあるんじゃないの?」
「う~ん……それも簡単に行き来できる世界じゃないからねぇ、こっちは。飛行機でビューン!とかさ。世界共通言語だってないんだもの」
「そ……っかぁ~……そうだよなぁ~……英語とかフランス語とか『誰かしら何かしら喋れる』っていう共通の言葉がないのか……」
国交がまったく無いわけではないが、世界中どこでも通用する言葉はない。
いわゆるバイリンガルは商人などにいることはいるが、自分が産まれた国から出る必要のないほとんどの人間は他国言語を覚える必要などないから、他国の文化を知る方法も必要もほとんどないのだ。


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