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『ロベルト・ポルック』が『カイトゥ・アキ』になった経緯は様々にある。
産まれたてのひとり息子であるヒロトを抱き上げた瞬間だとか、前世を思い出したせいだからとか、理由を見つけれたければどれでもいい。
だけど──
『アキ……アキ……彰洋君……』
一番の理由は、きっとこの声だ。
自分が日本人であり、女性に人気の『異世界転生』なんて男の自分には起きないと思っていたことを思い出す。
思い出した瞬間考えたことは「ああ、僕の部屋にある秘蔵版のマンガ本たちはどうなったかな~」であった。
『んもう!相変わらず、漫画のことばっかり!!』
「え~……だって、絶版に、文庫版に、秘蔵ワイド版……観賞用、愛読用、布教用……あああ!そうだ!!洋斗に落書きされたお宝版も!!」
『ふふっ……そうね……残念だけど、あれはもう価値のわからない人たちの手に……』
「まっ……マジかぁ~~~~~~っ?!許すまじ!!……って……え?」
激怒した瞬間にいきなり正気を取り戻し、目の前にふわふわと輝きながら浮かぶ女性──女性?いや、それよりも何か神々しい──まるで女神のような──でも見慣れて、会いたくて、焦がれたその人がいることに気が付いた。
「ゆ……かり……?」
『……うん。私……優香里だよ……ちゃんと、思い出してくれた……』
「だって……でも……え……?何、で……?」
優香里。
海東 優香里。
海東 彰洋の死んだ妻。
病死だと言われたが、誰も会わせてもらえないまま、義祖父の弟が経営する大病院の特別室でひっそりと亡くなった。
ついさっき十三回忌を終えて、洋斗を助手席に乗せて帰るところだった──
『その時に……大型トラックが突っ込んできてね……彰洋君、即死だったの』
「そく……し…………」
言葉が続かない。
え?僕、即死?え?あれ?でも?洋斗は?
『洋斗は……あの子は……今、意識不明で、大叔父様の病院……よ……私の時と、同じ……』
「は?」
意識不明?僕たちの子が?何で?どうして?
言葉がツルツルと脳みそを滑り落ちて、ひとつも理解することができない。
彰洋は光る手に抱き寄せられ、透きとおる妻に抱きしめられた。
『……ごめんね……今の私には、あんなひどい世界から、あなたを呼ぶことしかできなかった。あなただけでも、あんなところにいさせたくなかった。またいつか生まれ変わっても、私たちが生きたあの場所に生まれ変わってほしくなかった……の……』
「呼ぶ……って……僕、を……?」
『うん。あなたを。洋斗は目が覚めないけど、魂はちゃんと身体にあるから、私が無理やり呼ぶわけにはいかなかった。身体から離れてしまったあなたを呼ぶことはできたんだけど……』
ボロボロと泣く彰洋に引っ張られてしまったのか、抱き締める優香里も泣いた。
「僕っ……僕っ……あの子をっ……お、置いてっ……」
『うんっ……うんっ……わ、私もっ……あの子を……本当は連れてきたかった……』
「でもっ……何でっ……?」
彰洋はどうしても聞きたかった。
なぜ自分がここにいるのか、なぜ死んでずいぶん経つ優香里がここにいるのかを──
優香里はこの世界の女神である『バーシュナー』という存在に転生していた。
現代の日本よりもずっと自然が豊かで、魔法も魔物も当たり前にある世界である。
ただしその代わりというべきか、文明的には地球の歴史でいえばヨーロッパ中世時代や、日本でいえば平安時代ぐらいの迷信が迷信ではなくて鬼や化け物や妖かしいモノたちが確かに存在していた時と酷似していた。
『だからね……私の力もすごく強いの。生まれたばかりだけどね。でも、彰洋君を呼び寄せられるぐらいには強いけど、まだ生きている洋斗を無理やりには連れてこれない。これから信仰心がもっともっと捧げられるから、どうなるかわからないけど……』
「そう……なんだ……」
『うん。本来は真っ白にしなきゃいけない魂の記憶を残したままだから、私自身にちょっとペナルティが来ちゃうんだけどね』
「ペナルティ?」
『たぶん……いつか消えちゃうのかな?』
「えぇっ?!それって、マズいじゃん?!またいなくなっちゃうの?!」
彰洋は思いがけない情報に慌てて、さすがに泣くのも忘れた。
それに対して優香里はまだ綺麗な涙を少し残しながらも、ふわりと微笑む。
『今すぐじゃないし、たぶん彰洋君や洋斗があと数回転生する間はまだ存在できるみたい……う~ん……ああ、そっか……たぶん、今の生が終わったら、私と彰洋君がもう出会うことはない……そういうペナルティみたい』
「えぇっ?!」
『だから逆に私がこうやって彰洋君と会える間は、いろいろ目を瞑ってくれるみたい~』
「目…を……?」
『うん。いわゆる最高神というか、創造神というか……私を『神』として転生させちゃったお詫びですって』
困ったような嬉しいような、そんな複雑な笑顔で女神は笑った。
産まれたてのひとり息子であるヒロトを抱き上げた瞬間だとか、前世を思い出したせいだからとか、理由を見つけれたければどれでもいい。
だけど──
『アキ……アキ……彰洋君……』
一番の理由は、きっとこの声だ。
自分が日本人であり、女性に人気の『異世界転生』なんて男の自分には起きないと思っていたことを思い出す。
思い出した瞬間考えたことは「ああ、僕の部屋にある秘蔵版のマンガ本たちはどうなったかな~」であった。
『んもう!相変わらず、漫画のことばっかり!!』
「え~……だって、絶版に、文庫版に、秘蔵ワイド版……観賞用、愛読用、布教用……あああ!そうだ!!洋斗に落書きされたお宝版も!!」
『ふふっ……そうね……残念だけど、あれはもう価値のわからない人たちの手に……』
「まっ……マジかぁ~~~~~~っ?!許すまじ!!……って……え?」
激怒した瞬間にいきなり正気を取り戻し、目の前にふわふわと輝きながら浮かぶ女性──女性?いや、それよりも何か神々しい──まるで女神のような──でも見慣れて、会いたくて、焦がれたその人がいることに気が付いた。
「ゆ……かり……?」
『……うん。私……優香里だよ……ちゃんと、思い出してくれた……』
「だって……でも……え……?何、で……?」
優香里。
海東 優香里。
海東 彰洋の死んだ妻。
病死だと言われたが、誰も会わせてもらえないまま、義祖父の弟が経営する大病院の特別室でひっそりと亡くなった。
ついさっき十三回忌を終えて、洋斗を助手席に乗せて帰るところだった──
『その時に……大型トラックが突っ込んできてね……彰洋君、即死だったの』
「そく……し…………」
言葉が続かない。
え?僕、即死?え?あれ?でも?洋斗は?
『洋斗は……あの子は……今、意識不明で、大叔父様の病院……よ……私の時と、同じ……』
「は?」
意識不明?僕たちの子が?何で?どうして?
言葉がツルツルと脳みそを滑り落ちて、ひとつも理解することができない。
彰洋は光る手に抱き寄せられ、透きとおる妻に抱きしめられた。
『……ごめんね……今の私には、あんなひどい世界から、あなたを呼ぶことしかできなかった。あなただけでも、あんなところにいさせたくなかった。またいつか生まれ変わっても、私たちが生きたあの場所に生まれ変わってほしくなかった……の……』
「呼ぶ……って……僕、を……?」
『うん。あなたを。洋斗は目が覚めないけど、魂はちゃんと身体にあるから、私が無理やり呼ぶわけにはいかなかった。身体から離れてしまったあなたを呼ぶことはできたんだけど……』
ボロボロと泣く彰洋に引っ張られてしまったのか、抱き締める優香里も泣いた。
「僕っ……僕っ……あの子をっ……お、置いてっ……」
『うんっ……うんっ……わ、私もっ……あの子を……本当は連れてきたかった……』
「でもっ……何でっ……?」
彰洋はどうしても聞きたかった。
なぜ自分がここにいるのか、なぜ死んでずいぶん経つ優香里がここにいるのかを──
優香里はこの世界の女神である『バーシュナー』という存在に転生していた。
現代の日本よりもずっと自然が豊かで、魔法も魔物も当たり前にある世界である。
ただしその代わりというべきか、文明的には地球の歴史でいえばヨーロッパ中世時代や、日本でいえば平安時代ぐらいの迷信が迷信ではなくて鬼や化け物や妖かしいモノたちが確かに存在していた時と酷似していた。
『だからね……私の力もすごく強いの。生まれたばかりだけどね。でも、彰洋君を呼び寄せられるぐらいには強いけど、まだ生きている洋斗を無理やりには連れてこれない。これから信仰心がもっともっと捧げられるから、どうなるかわからないけど……』
「そう……なんだ……」
『うん。本来は真っ白にしなきゃいけない魂の記憶を残したままだから、私自身にちょっとペナルティが来ちゃうんだけどね』
「ペナルティ?」
『たぶん……いつか消えちゃうのかな?』
「えぇっ?!それって、マズいじゃん?!またいなくなっちゃうの?!」
彰洋は思いがけない情報に慌てて、さすがに泣くのも忘れた。
それに対して優香里はまだ綺麗な涙を少し残しながらも、ふわりと微笑む。
『今すぐじゃないし、たぶん彰洋君や洋斗があと数回転生する間はまだ存在できるみたい……う~ん……ああ、そっか……たぶん、今の生が終わったら、私と彰洋君がもう出会うことはない……そういうペナルティみたい』
「えぇっ?!」
『だから逆に私がこうやって彰洋君と会える間は、いろいろ目を瞑ってくれるみたい~』
「目…を……?」
『うん。いわゆる最高神というか、創造神というか……私を『神』として転生させちゃったお詫びですって』
困ったような嬉しいような、そんな複雑な笑顔で女神は笑った。
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