間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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制度を作る者。

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この町の海岸で遊べる場所はけっこう有名で、裕福な商人だけでなく貴族なんかも町外れに作られた別荘地から馬車で乗り付け海遊びを楽しむことも多い。
そのせいかもしれないが砂浜にゴミが散乱していたり、散策用の二輪馬車のまま砂浜に降りて来て動けなくなる貴族もいるなど、問題がないわけではなかった。
「よぉいっしょぉ!」
そして今日も今日とてバルトロメイはそんな馬車を動かす手伝いをしている。
冒険者ギルドから『浜辺遊びをする貴族を助けてほしい』といういらいがでているわけでもないが、何故かそんな場面に遭遇することが多く、頼まれれば嫌な顔をすることなく──むしろ楽しそうな顔で馬車を押し出した。
始めの頃は物珍しさから、そしてしばらく経つと『報酬を払う必要のない便利な知恵足らずがいる』という噂になり、現在は──

「ありがとう!」
「いいえ。とても綺麗にしていただいて助かりましたわ」
「ああ、そうだ…ほら」
「えっ!い、いいんですか?決まったお金より多い……」
「ああ、いいんだよ。君の他にも小さい子たちが手伝っていただろう?みんなで美味しい物でも食べなさい」
「ありがとう!親切なお貴族様!」
「優しいのね、あなた……」
「いやぁ、ハッハッハッハッ……」
今や砂浜で遊んだ帰り際に、後片付けを子供たちに頼んで規定された賃金を渡すというのが一般的になった。
しかもその際に少しでも多く報酬を出すことで貴族紳士は自分の妻や恋人などに良い顔ができるし、それを含んでも片付け料は自分たちの使用人を使った後の労いよりもずっと気軽で、出費という点においてはかなり安く上がる。
子供たちも仕事が欲しくてそこいらをブラブラとしているわけではなく、当番制を取り入れて決まった人数だけ待機場所にいるため景観や治安が悪いと砂浜で遊ぶ金持ちに訴えられることもなく、しかしちゃんと報酬を得ることができた。
システムを作ったのはサイラーたちドファーニ商会が中心となっていたが、世話をする時間のない大人たちにとって子供がいる場所がちゃんとわかり、しかも金をもらえるとあれば反対する者はなく、冒険者ギルドだけでなく職業ギルドや商会、そうではない者からも登録の申し込みがあり、おかげで綺麗な砂浜が実現したのである。
「……これが、『幸運勇者』の規定した『奉仕』か……」
「何ですか?その『幸運勇者』って?」
「ああ、ほら、バルトロメイっていうあの坊主さ」
形だけではあるが、サイラーたちの浴場施設の1階に設置された砂浜当番待機室と受付カウンターにいる監視員という名の男たちだが、仕事が終わった子供から受け取ったその日の正規報酬の1割──『待機滞在費』という場所代を受けとった後、男がしみじみと言った。
「バ……ああ、今日も何かまたどっかのバカが砂浜に乗りいれたせいで嫌がってた馬を落ち着かせていた奴か」
「ああ。サイラーさんがそいつのギルドカードを確認したらしいんだけど、『幸運』っていう項目に見たことも無ェマークがついているのに、他の項目はぜ~んぶ1なんだと!」
それを聞いたもう1人の男が目を丸くする。
「え?全部『1』?それって超初心者ぐらいじゃ……」
「だよなぁ!なのに、名称は『勇者』になってるんだが、剣士でも魔法使いでも、賢者でも大斧使いでも弓使いでも細剣使いでも鞭使いでも……」
「ま、待て待て待て待て!」
「何だよ?」
「『勇者』ってたいてい何かを極めたって奴なんじゃないのか?」
「そうだよなぁ……」
2人の男はどちらも腑に落ちない顔を見合わせ、陽が落ちかけている中、今は子供達と砂まみれになって転がり遊ぶバルトロメイを遠くから眺めた。


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