間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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幼くなる者。

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だがポリネはすぐにスンッと表情を消し、バルトロメイに包みを返す。
きっと気が済んだのだろう──そう思ってバルトロメイも気を悪くすることなく丁寧に畳んでバッグにしまった。
「なあなあなあ!それ!それも魔道具なんだろう?」
「え?」
クガンが遠慮もせずにグイグイとバルトロメイに近付き、断りもなく開いたままの口に手を突っ込んだ。
「あ」
「んぁ?」
バルトロメイが止める間もなく片腕どころかさらに肩までカバンに沈めたクガンは顔を青褪めさせ、バタバタと足を地面に叩きつけたかと思うと、まるでその先に行くまいとするかのように腰を落として叫び出した。
「いっ…イヤだぁぁぁぁぁ───!!ぬっ、抜けっ…吸い、す、いこまれっ……た、助けてくれぇっ!!」
「なっ……」
バルトロメイはキョトンとしているし、アンバールたちも咄嗟には動けずに暴れるクガンとただ座っているだけのバルトロメイを見比べる。
そこで反応したのはポリネで、ようやく事態が動いた。
「呑まれる。無理。見捨てる?」
最後の疑問符で、アンバールは上半身の一部まで呑まれても必死に首を逸らして助けを求めるクガンに飛びついた。

とにかくバルトロメイが後退り、アンバールとチェットがクガンの腰と下半身を引っ張ると、まるで湿った土から重たい根菜を抜くのに似た感じで、弟分の身体は無事現世に戻った。
ガクガクと震えるクガンは、さらにバルトロメイの顔を見て怯えてアンバールの後ろに隠れる。
そこだけを切り取ってみればまるでバルトロメイが酷いことをしたように見えるが、実際のところはクガンが持ち主に断りなくバッグの中に触れた──言うなればプチ窃盗未遂だ。
「……だってぇ……」
「『だって』じゃない!お前は自分のパーティーメンバーでもない人の物を『盗もうとした』って認定されたんだぞ?」
「だって、俺たち友達なのに……」
「そういう問題じゃない!」
おそらくバルトロメイの持ち物の魔道具は『本人以外使用禁止』ぐらいの制約になっている──かなり少ない文字数でポリネが断言し、クガンよりもそういった冒険者の所持品やルールに詳しいアンバールたちは納得して、年少者にお説教タイムとなった。
「だってぇ……ズルイぃ~……」
「だってってなぁ……お前……」
はぁ…とアンバールは溜息をついたが、いつになく幼児っぽいクガンがグスグスと泣くのを持て余す。
「……クガン。毒の実。解毒」
ポリネは呟くと、有無を言わさずクガンの口に茶色いビンを突っ込んだ。
「うぇぇ~……苦いぃ……ポーがいじわるするぅ……」
「あっ!それカバンの中に入れてた……今回の依頼の……」
ますます態度が幼児化したクガンが握りしめていた手からプチュッと音を立てて赤い汁が流れ出すのを見て、バルトロメイが思い当たったとばかりに声を上げた。
「依頼?」
「はい。あのダンジョンの2階層に生えているケランっていう木の実で、鎮静剤に使うとか……ただ、その実から出る汁を舐めたり匂いを嗅ぐと『ヤバいこと』になるから、持ち帰る時は気をつけてって……」
「何でそんな物持ってんだよ?!」
グォッと怒りだしたのはアンバールである。
そんな危険物を持ち歩いているのなら、先に言っておいてもらわないと──
「バカ。悪い。クガン」
バシッという音が2つ同時に起こり、アンバールは前につんのめって地面に土下座するような姿勢になった。
「そうだよ。バルトロメイのせいじゃない。クガンが勝手に触った。手を突っ込んだ。お前もさっき言ってたじゃないか……彼は僕たちの仲間じゃない。彼が何の依頼を受けていて、何を持っているのか、僕たちに話す義理はない」
「うぅ……」
まるで謝るような姿になってしまったのをキョトンと見下ろしていたが、バルトロメイが視線を上げるとそこには魔法を使うための杖を両手で構えたポリネと、手を振り降ろした格好で叱りつけるチェットがいる。
「だいたいダンジョン産の魔道具は最初に手にした者が所有権を得るけど、その守備範囲がどれくらいかなんて、ギルドとか教会に持って行って鑑定してもらうしかその制約内容を知ることはできないんだぞ?魔道具師が作った物だって、どんな制約が掛けられているのかは所有者しか知り得ないし……だいたいが『盗難防止』で弾くのが普通だけど……吸い込むなんて聞いたことないけど……」
チェットの声がだんだんと叱責から思案へと変わっていくと、ポリネも黙ってうなずいた。


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