間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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交渉する者。

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おそらくだがバルトロメイは自分の容姿というものに頓着がない。
だからこそ『顔のいい御者付きの荷馬車』として狙われていたという意識がなかったのである。

それは年齢に見合わぬほど知識や語彙、そして常識がないことをこの数日間、一緒に暮らしていたロダーは知ることになった。
『産まれ場所はどこだ』と聞いても『知らない』と言い、『親はどこにいる』と聞いても『どこかの森にいるがどこかわからない』と返ってくる。
では育った場所はどこだ──という問いにも答えは返ってこないと思ったが、意外にも「途中からはどこかの教会?っていうところにいた」という返事が返ってきた。
「でもどこかはわからないのかー」
「うん、わからない。っていうか、そこを探してる」
「は?」
そこでようやくバルトロメイは、ロダーにここに来るまでのアレコレを説明することができた──というか、聞いてもらうことができたというのが正しい。
自ら吹聴しなかったのは、師匠たちの元から飛ばされて出会ったマロシュ老に軽々しく自分の境遇を話さない方がいいと忠告されたのと、さらにその捜している師匠から軽々しく神語が話せることを言わないようにと言われていたためである。
常識と世間知らずのわりに、いやだからこそバルトロメイは口が堅く、聞かれるまで自分と一緒に暮らすようになったとはいえロダーに話す必要を感じなかったのだ。

だがこうやって知ってもらったというのは何故だか気が軽くなり、ついでにこの家のこともどうにかなりそうな気がしてきた。
というわけで──
「は?この家?!」
「うん……なんか、あげるわけにはいかないらしいんだけど。ロダーがここに住む分にはいいんだって。で、えぇと……僕が帰ってきたい時に管理?っていうのをしてもらえばいいって」
「管理……ははぁ……なるほど……」
バルトロメイの手には、冒険者ギルドからドファーニ商会の大会長であるテイラーに宛てた手紙の返信が握られている。
普通なら商人宛てで手紙を出すのなら商業ギルドを通すべきなのだが、王国を縦横無尽に行き来するドファーニ商会は護衛を必ず雇ってくれるいいお客様であり、多少の都合をつける価値があった。
そしてバルトロメイがもうそろそろ家のある町を発ち、師匠たちを探しに行きたいが同居人に家を譲っていいかという問いに対する答えが、『売るんじゃなくて、貸せばいい』だった。

しかもその話はロダーにとっては、ある意味願ったり叶ったりである。
というのもロダーが研究している若返りや老化防止の塗り薬の配合や、自作した各種回復薬を重複して飲んだ際に起こった強制睡眠状態をどうにかできないかという研究をするために、腰を据えたいと思っていた。
しかもこの町には魔女がおり、飯の美味い食堂も総菜屋もパン屋もある。
生活するには不自由がないが問題としてロダーはよそ者であり、寝泊まりする部屋と、研究するための薬房が必要だった。
そういう意味では宿で長期滞在の申し込みをすればいいのだろうが、ある程度冒険で貯蓄はあるとはいえ、この先薬草を買ったりなんだりすればいずれ追い出されるだろう。
「……え?じゃあこのまま地下に作った研究室とか、俺の寝室もそのままにしておいていいってこと?」
「え?いいよ、もちろん。無くなったら不便でしょ?」
それはロダーが勝手に魔法で地下に向かう階段と、その先に部屋や浴室を増やしたのであるが。
「何か、僕もここに帰ってきていいみたいだし」
「まあ、そうだろうな。そしたら俺は管理人ってことでいいのか?それか借家人か……家賃はいくらにする?」
「え?家賃?」
「そう、家賃。10日ごとか?30日後とか?月が替わるたびに?とりあえず直接は払えないから、冒険者ギルド預りにしてもらって……」
「あ、家賃って…何かロダーが僕にお金をくれるの?」
「金をやるっていうか……」
やはり常識が足りないバルトロメイとは話が噛み合わず、面倒になったロダーはさっさと話を進めようとし──
「別にいいよ~。ロダーはここにいてくれるんでしょ?」
「へっ?えっ……あ、ああ……」
「じゃあ、お留守番お願いするよ。お金は何か僕、いらないから。冒険者ギルドで依頼を受けるし。冒険者ギルドのある町に着いたら、ちゃんと滞在届けを出すし……」
「えっ?!そ、それって……」
そこから払う払わない、いるいらないの問答があったが、結局バルトロメイがそこまで計算能力が高くないことを理解したロダーが譲歩し、とにかく家を維持するということで話は決着がついた。


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