間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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解放される者。

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ギルドマスターはそう言いながら、紙入れを胡散臭そうに見る。
うっすらと色味の違う場所があるのは、何かに染色されたのだろうか。
「さすがに血塗れの下着にまで手を伸ばす気にはなれなかったんだろうさ。おかげで身分証の他に、さっき聞いてもらった記録玉もそのまんまだった」
「いったいどこに入れてたんだよ、お前は……」
「いやぁ、弱者なりの知恵ってやつさ。どちらにしろ、試供品みたいなもんだからな……灰色から銀色になったクロクマネズミっていう魔獣を10匹見つけるところから始めないと駄目だしな」
「灰色から銀色って……いくら雑魚害獣扱いのクロクマネズミがそんな色になるって、死ぬ直前の奴じゃねぇか……」
「ああ、そこは運が良くて。俺の死んだじいさんの畑がちょうどこいつらの餌場というか巣みたいになっててさ。ちょうど色替えの時のやつが30匹ほど……」
「多すぎだ?!」
「余剰分まで亜空間付与のできる革加工を命題にしている魔法使いに預けたら、代金代わりに作ってくれたんだよ」
「……それって、一般流通は」
ロダーに向かってギルドマスターがギロリと視線を向けたが、それよりも強く興味を示したのは彼の横に座る女性だ。
「いや無理だろう。色々やってみたらしいが、これだけ薄い加工ができるのは、銀色になったクロクマネズミだけで、しかもストレスがかかって最後の最後に色が変わらないような自然死じゃないと駄目らしい。養殖して色替えを見守れるようなシステムでもなければ……」
「作りましょう!ロダーさん、その方のご紹介を是非!」
食いついたのはギルドマスターではなく、魔法使いのその女性の方。
「そ……それについて、は……その……うん……あいつらをどうにかしてもらった後で、何とか」
「約束しましょう!」
「おい!マスターの俺を差し置くな!」
ギャアギャアと室内は騒がしくなったが、バルトロメイはキョロキョロとロダーとギルド職員を交互に見ているだけだった。


話が散らかってしまったが、とにかくロダーの目的だった『白鳥の姉妹姫』パーティーからの脱退は認められ、損害賠償は求めない代わりに『二度と近づかない』──否、『近づけない』魔法措置を施してもらうことになった。
彼女らはここにはいないが、心温まるとはとても言えない再会と硬直して放置して晒し者になっていることが罰とされ、ほぼ全面的にロダーの言い分が通った形である。
「ま……あいつらは前々から『男喰いなんじゃないか』って噂されてたからな……そっちについては、方々のギルドに問い合わせにゃならん。あと、そっちの……バ、バ、バ……」
「バルトロメイ…バルトロメイ・ルーさん。ええ、ドファーニ商会から特別の紹介と依頼でこの町の空き家斡旋と再建築許可が届けられたあの家を贈られた冒険者ですわ……先ほどの記録で言われていた『他の者に手柄を取られてばかりのレベルアップしない勇者』さんですね。ただ、そういうことをする者は何故か後ほど降格したり、廃業に至っていますけども」
「ああ、ありゃあ眉唾もんかと思っていたが、本当に人畜無害そうな坊やだもんなぁ……だが、こいつがパーティーにいるといつもより魔物からのドロップ品が多いとか、逆にトラップ避けが上手くいくとか……何か『運が良くなったように思う』っていう奴もいたな……」
だがどんなふうに見つめられても、バルトロメイは自分に変わったところがあるとは思えず、ギルドマスターの問いかけるような目付きに返す答えなど持っていなかった。


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