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居座る者。
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夜明け前のひと際寒くなった頃、アディリアの家でバルトロメイは温かいお茶と蜂蜜漬けの花を乗せたクッキーを食べていた。
ずっと一緒にいたのに、何故か家の中は暖かく、お湯もしっかりと熱く、クッキーはちょうどいい温度でまだふんわりといい匂いがしている。
「はぁ~~~……疲れがどっか行っちゃいました!」
「そりゃよかった」
フンッと軽く鼻息を立てながらもアディリアは満更でもない顔をする。
実際バルトロメイに出したクッキーやお茶には、疲労回復の呪い薬が入っているのだ。
他の人間なら銀貨が何枚も飛ぶような金額で売る物を、何故かこの世間知らずにはすんなりと出してしまえるのを魔女は苦笑しつつ、クンクンと鼻を利かせる。
「……お前さん、誰か拾ったのかい?」
「拾った……ああ!ロダー・ビアーシュっていう……魔法使いさんが道で寝ていたんで、連れてきました。今はうちで寝ています」
「ふぅん……」
また変なモノに引っかかったなと思ったが、特に注意はしない。
何せバルトロメイは助言を求めたり、占ってほしいとか言っているわけではないからだ。
どんなにこうやって花摘みを手伝ったりしても図々しくすることもなく、バルトロメイはちゃんと魔女と線引きをしている。
もちろんそれは彼女に対してだけでなく、町の誰に対してもそうで、逆に言えば誰とも親しくない。
だからつい、気紛れでバルトロメイにアドバイスをした──してしまった。
「ふん……まあ、そいつはいいだろうさ。とりあえずはお前さんに必要のない物は無くなっちまうだろうけどね」
「はぁ……?」
コテンとバルトロメイは首を傾げたが、今いちピンとは来なかった。
それから数日の間、魔女に注意されたようなことは特に起こらず、バルトロメイの持ち物の中で無くなった物というと食べ物や飲み物ぐらいで、同居人が増えたというのが唯一の違いだった。
「んじゃあ、行ってらっしゃーい!」
「行ってきまーす」
のほほんと挨拶を交わすのは、ロダーとバルトロメイだ。
あれからこの小さな家の主寝室は何故かロダーが使い、バルトロメイは荷馬車で寝起きしている。
どういうわけかロダーは家から出ることがなく、冒険者ギルドであるパーティーを見かけたかとバルトロメイに訊くが、「今日もいなかったよ」という言葉が返ってくるたびに肩を竦めて居候の駄賃として部屋の片づけを続けた。
「悪いんだけどさ、もうしばらく泊めてくれよ」
「あ、いいですよ。僕、今日は薬草摘みの依頼で留守にしますんで、よろしくお願いします。エンとヤシャは適当に裏の木戸を開けてくれれば勝手に遊びに行ってくれますから。帰ってきたらご飯だけあげてください。夜は木戸を閉めてくれればいいですから。あ、ご飯は食料棚に……」
「あ~あ~、わかってるって!てか理由訊かないのかよ?!
「え?行くとこないんですよね?」
「そうだよ!」
「『大丈夫』ってアディリアさんが言ってたんで、大丈夫ですよ。じゃ、行ってきまーす」
どこまでも人が良いと、ロダーは呆れながらも徒歩で出かけるバルトロメイを見送った。
ずっと一緒にいたのに、何故か家の中は暖かく、お湯もしっかりと熱く、クッキーはちょうどいい温度でまだふんわりといい匂いがしている。
「はぁ~~~……疲れがどっか行っちゃいました!」
「そりゃよかった」
フンッと軽く鼻息を立てながらもアディリアは満更でもない顔をする。
実際バルトロメイに出したクッキーやお茶には、疲労回復の呪い薬が入っているのだ。
他の人間なら銀貨が何枚も飛ぶような金額で売る物を、何故かこの世間知らずにはすんなりと出してしまえるのを魔女は苦笑しつつ、クンクンと鼻を利かせる。
「……お前さん、誰か拾ったのかい?」
「拾った……ああ!ロダー・ビアーシュっていう……魔法使いさんが道で寝ていたんで、連れてきました。今はうちで寝ています」
「ふぅん……」
また変なモノに引っかかったなと思ったが、特に注意はしない。
何せバルトロメイは助言を求めたり、占ってほしいとか言っているわけではないからだ。
どんなにこうやって花摘みを手伝ったりしても図々しくすることもなく、バルトロメイはちゃんと魔女と線引きをしている。
もちろんそれは彼女に対してだけでなく、町の誰に対してもそうで、逆に言えば誰とも親しくない。
だからつい、気紛れでバルトロメイにアドバイスをした──してしまった。
「ふん……まあ、そいつはいいだろうさ。とりあえずはお前さんに必要のない物は無くなっちまうだろうけどね」
「はぁ……?」
コテンとバルトロメイは首を傾げたが、今いちピンとは来なかった。
それから数日の間、魔女に注意されたようなことは特に起こらず、バルトロメイの持ち物の中で無くなった物というと食べ物や飲み物ぐらいで、同居人が増えたというのが唯一の違いだった。
「んじゃあ、行ってらっしゃーい!」
「行ってきまーす」
のほほんと挨拶を交わすのは、ロダーとバルトロメイだ。
あれからこの小さな家の主寝室は何故かロダーが使い、バルトロメイは荷馬車で寝起きしている。
どういうわけかロダーは家から出ることがなく、冒険者ギルドであるパーティーを見かけたかとバルトロメイに訊くが、「今日もいなかったよ」という言葉が返ってくるたびに肩を竦めて居候の駄賃として部屋の片づけを続けた。
「悪いんだけどさ、もうしばらく泊めてくれよ」
「あ、いいですよ。僕、今日は薬草摘みの依頼で留守にしますんで、よろしくお願いします。エンとヤシャは適当に裏の木戸を開けてくれれば勝手に遊びに行ってくれますから。帰ってきたらご飯だけあげてください。夜は木戸を閉めてくれればいいですから。あ、ご飯は食料棚に……」
「あ~あ~、わかってるって!てか理由訊かないのかよ?!
「え?行くとこないんですよね?」
「そうだよ!」
「『大丈夫』ってアディリアさんが言ってたんで、大丈夫ですよ。じゃ、行ってきまーす」
どこまでも人が良いと、ロダーは呆れながらも徒歩で出かけるバルトロメイを見送った。
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