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目を覚ます者。
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よほど財政に潤いのある領地でなければ、主要地以外の道を整備しようなどとは思わないだろう。
おかげでどんなに速度に気を付けていようと、ガタゴトと荷馬車は揺れた。
だがそれでも男は目を覚まさず、バルトロメイが届け物をして受領印をもらい、冒険者ギルドに報告を出してもまだ固い荷台を物ともせずに眠り込んでいる。
バトロメイはそのまま家まで荷馬車を引っ張って行きながら、あちこちの店で小麦粉を買ったり、新しいベッドリネンを買ったり、もうそろそろなくなりかけていた調味料や洗剤など必要な物を購入していった。
そうしながらもチョコチョコと小さな手助けをして、気付けば買った以上の物をもらっている──いつものことなので、バルトロメイはまるで息をするように手を差し伸べていた。
「ああ、坊や、いつもありがとうねぇ」
「いいんですよ、ホキンズさん。これで1週間ぐらいは大丈夫ですか?」
小麦粉の大袋を10個パントリーの棚に、薪を竈の近くに置き、裏の畑から瑞々しい野菜を何種類か掘り出し、お使いで肉屋からとりあえず今日必要な分だけを購入してホキンズ夫人が御用聞きに来てほしいことを伝言。
彼女はとても美味しいキッシュなどを作って売っているのだが、いつもならこういったことは息子夫婦がやってくれる。
だが息子は現在親戚の家に結婚式の手伝いで出ており、頼みの嫁は身重であまり重たい物を持たせたくはないということで、こうやってバルトロメイが荷運びをしてやっていた。
お礼は当然ホキンズ印のキッシュ数種類で、これから売り出す予定の新作も含まれている。
「残り物ばかりじゃ悪いからねぇ。あとで感想を教えておくれ」
ニコニコしながら老女はそう言ったが、それは残り物どころかわざわざバルトロメイのために作っておいてくれたもので、しかも焼きたてのミートパイまで持たせてくれた。
今日の夕ご飯はパンと焼いただけの肉にしようと思っていたのに、かなり豪華なものに変化したのである。
「……忘れるって、有りかよ?」
いつの間にか荷馬車の奥の方──御者台の後ろにまで転がっていた救助者のことはすっかり忘れていたバルトロメイは、自分が掛けてやった毛布にくるまった男が納屋に繋がる入り口に立っているのを見てキョトンとした。
「有りみたいです」
「無しだろ?!」
バルトロメイにしてみれば助けたはいいものの、まったく起きなかった男のことをすっかり忘れていただけで、どうしてまだここにいるのかと疑問にしか思わない。
途中で目を覚まして会話でもすれば、これからどこに行くのかとか、さようならの挨拶ぐらいはしたのだろうが──
「何のご用ですか?」
「ご用って、助けといてそれだけ?!」
「え~っと……ええ、助けましたけど……あ、ひょっとしてあの寝てた場所で待ち合わせしてました?」
言ってくれれば送りますが、何か?みたいな人の良さで自分を見るバルトロメイの素直そうな疑問顔を見て、男はようやく文句を言う前に、するべきことがあったのを思い出したらしい。
「あ、いや、そういうわけでは……その……た、助けてくれて、その……助かった」
「いえいえ、どういたしまして。勝手に連れてきてしまいましたけど、戻ります?」
「えっ?!いやいやいやいやいや!!止めてくれ!あんなところに戻ってどうするんだよ?!」
慌てて否定する男の様子を見て、バルトロメイは今日『拾い物』をした場所を思い浮かべる。
確かに待ち合わせするにしても、あんなふうに蹲ってしまっては木の幹に紛れて彼を見失ってしまいそうだし、第一魔獣たちに襲われかねないほど無防備だった。
「そうですか。戻らなくていいんですね?」
「むしろ戻りたくないわ!何で戻りたいとおも……ん……何か……いい匂いが……」
ないないと手振りで示していた男が目を瞑り、鼻をひくつかせてうっとりと呟いた。
おかげでどんなに速度に気を付けていようと、ガタゴトと荷馬車は揺れた。
だがそれでも男は目を覚まさず、バルトロメイが届け物をして受領印をもらい、冒険者ギルドに報告を出してもまだ固い荷台を物ともせずに眠り込んでいる。
バトロメイはそのまま家まで荷馬車を引っ張って行きながら、あちこちの店で小麦粉を買ったり、新しいベッドリネンを買ったり、もうそろそろなくなりかけていた調味料や洗剤など必要な物を購入していった。
そうしながらもチョコチョコと小さな手助けをして、気付けば買った以上の物をもらっている──いつものことなので、バルトロメイはまるで息をするように手を差し伸べていた。
「ああ、坊や、いつもありがとうねぇ」
「いいんですよ、ホキンズさん。これで1週間ぐらいは大丈夫ですか?」
小麦粉の大袋を10個パントリーの棚に、薪を竈の近くに置き、裏の畑から瑞々しい野菜を何種類か掘り出し、お使いで肉屋からとりあえず今日必要な分だけを購入してホキンズ夫人が御用聞きに来てほしいことを伝言。
彼女はとても美味しいキッシュなどを作って売っているのだが、いつもならこういったことは息子夫婦がやってくれる。
だが息子は現在親戚の家に結婚式の手伝いで出ており、頼みの嫁は身重であまり重たい物を持たせたくはないということで、こうやってバルトロメイが荷運びをしてやっていた。
お礼は当然ホキンズ印のキッシュ数種類で、これから売り出す予定の新作も含まれている。
「残り物ばかりじゃ悪いからねぇ。あとで感想を教えておくれ」
ニコニコしながら老女はそう言ったが、それは残り物どころかわざわざバルトロメイのために作っておいてくれたもので、しかも焼きたてのミートパイまで持たせてくれた。
今日の夕ご飯はパンと焼いただけの肉にしようと思っていたのに、かなり豪華なものに変化したのである。
「……忘れるって、有りかよ?」
いつの間にか荷馬車の奥の方──御者台の後ろにまで転がっていた救助者のことはすっかり忘れていたバルトロメイは、自分が掛けてやった毛布にくるまった男が納屋に繋がる入り口に立っているのを見てキョトンとした。
「有りみたいです」
「無しだろ?!」
バルトロメイにしてみれば助けたはいいものの、まったく起きなかった男のことをすっかり忘れていただけで、どうしてまだここにいるのかと疑問にしか思わない。
途中で目を覚まして会話でもすれば、これからどこに行くのかとか、さようならの挨拶ぐらいはしたのだろうが──
「何のご用ですか?」
「ご用って、助けといてそれだけ?!」
「え~っと……ええ、助けましたけど……あ、ひょっとしてあの寝てた場所で待ち合わせしてました?」
言ってくれれば送りますが、何か?みたいな人の良さで自分を見るバルトロメイの素直そうな疑問顔を見て、男はようやく文句を言う前に、するべきことがあったのを思い出したらしい。
「あ、いや、そういうわけでは……その……た、助けてくれて、その……助かった」
「いえいえ、どういたしまして。勝手に連れてきてしまいましたけど、戻ります?」
「えっ?!いやいやいやいやいや!!止めてくれ!あんなところに戻ってどうするんだよ?!」
慌てて否定する男の様子を見て、バルトロメイは今日『拾い物』をした場所を思い浮かべる。
確かに待ち合わせするにしても、あんなふうに蹲ってしまっては木の幹に紛れて彼を見失ってしまいそうだし、第一魔獣たちに襲われかねないほど無防備だった。
「そうですか。戻らなくていいんですね?」
「むしろ戻りたくないわ!何で戻りたいとおも……ん……何か……いい匂いが……」
ないないと手振りで示していた男が目を瞑り、鼻をひくつかせてうっとりと呟いた。
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